アルペス・ポエニナエ

アルペス・ポエニナエ、またはアルペス・グライアエは、古代ローマ帝国の属州の一つでした。この属州は、現在でいうところのイタリアのヴァッレ・ダオスタ州とスイスのヴァレー州にまたがる地域に位置していました。アルペスを冠する3つの属州のうちの一つです。

この地域には、元々サラッシ族が居住していましたが、紀元前15年にアウグストゥス帝の時代にローマ帝国の支配下に入り、属州となりました。属州都は、アウグスタ・プラエトリア・サラッソルム（現在のイタリアのアオスタ）に置かれ、ローマ帝国の重要な拠点として機能しました。

属州名である「ポエニナエ（Poeninae）」は、カルタゴ人を意味するラテン語の「ポエヌス（Poenus）」と発音が似ていたため、一部のローマの著述家たちは、第二次ポエニ戦争においてハンニバルがアルプスを越えてイタリアに侵攻した際（紀元前218年）に、この属州内のグラン・サン・ベルナール峠を通過したのではないかと推測しました。ハンニバルのアルプス越えのルートは諸説ありますが、ポエニナエを通過したという説も浮上しました。

しかし、歴史家のティトゥス・リウィウスは、「ポエニナエ（Poeninus）」のスペルが、実際には「ペンニヌス（Penninus）」の誤りである可能性を指摘しました。また、リウィウスは、ハンニバルがそこまで北寄りのルートを選択したとは考えにくいという見解を示しています。ハンニバルの軍隊が、より南側の、より標高の低い峠を通った可能性が高いと考えたのです。

アルペス・ポエニナエは、ローマ帝国にとって重要な地域であり、その地理的な位置から、交通の要衝としての役割も担っていました。また、属州都であるアオスタは、ローマ帝国の影響を強く受けた都市として発展し、現在でもその痕跡を見ることができます。

このように、アルペス・ポエニナエは、古代ローマ帝国の歴史において重要な役割を果たした属州であり、その名はハンニバルのアルプス越えという歴史的な出来事とも関連付けられて語られています。

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