アルボル・トロス

火星の盾状火山：アルボル・トロス

アルボル・トロス（Albor Tholus）は、太陽系の第四惑星である火星に存在する著名な火山の一つです。この火山は、火星の赤道付近に広がる広大で比較的平坦な地域、エリシウム平原に位置しています。エリシウム平原は、火星における主要な火山活動の中心地の一つであり、アルボル・トロスは、この平原に点在するいくつかの大きな火山構造物の中に含まれます。具体的には、エリシウム平原を代表する巨大火山であるエリシウム山（Elysium Mons）やヘカテス・トロス（Hecates Tholus）といった他の主要な火山の南方に位置しており、これらエリシウム三山として知られる火山群の一部を形成しています。

アルボル・トロスは、その形態から盾状火山に分類されます。盾状火山は、粘性の低い溶岩が繰り返し噴出して広範囲に流れることで、緩やかな傾斜を持つ広大な山体を形成します。その規模は、標高が山麓から山頂まで約4.5キロメートルに達し、基底部の直径はおよそ160キロメートルに及びます。火星には、オリンポス山のようなさらに巨大な火山が存在しますが、アルボル・トロスも十分に大きな火山構造体と言えます。

この火山の最も際立った特徴の一つは、山頂部に開いた巨大なカルデラです。カルデラとは、火山の噴火活動終息後に、マグマ溜まりが空洞化して山頂部が陥没することによって形成される地形です。アルボル・トロスのカルデラは、その直径が約30キロメートルに達する広がりを持っています。そして、特筆すべきはその深さです。このカルデラの深さは約3キロメートルにも及びます。この深さは、地球上の多くの火山に見られる典型的なカルデラの深さと比較すると、非常に異例な値です。なぜアルボル・トロスのカルデラがこれほどまでに深いのかは、火星の内部構造、マグマ供給システムの性質、あるいは噴火様式といった、地球の火山とは異なる地質学的プロセスが関わっている可能性を示唆しており、重要な研究課題となっています。

エリシウム平原の火山活動に関する知見は、欧州宇宙機関（ESA）の火星探査機マーズ・エクスプレスによる詳細な観測によって大きく進展しました。マーズ・エクスプレスに搭載された高解像度ステレオカメラ（HRSC）などの観測機器は、アルボル・トロスを含むエリシウム平原の火山群の地形、地質、および層序を詳細に調査しました。これらのデータ分析の結果、エリシウム平原の火山活動が、地質学的に見て非常に長い期間にわたって継続していたことが明らかになりました。これは、火星の内部が、比較的最近の時代まで活発な熱源を維持していたことを示唆する重要な証拠です。アルボル・トロスもまた、この長期にわたる火山活動期に形成され、その進化の過程で複数回の噴火とそれに伴うカルデラ形成や拡大を経験したと考えられています。

アルボル・トロスの研究は、その特異なカルデラの深さや長期にわたる活動の痕跡を通じて、火星の火山活動のメカニズム、内部構造の進化、そして熱史を理解する上で不可欠な情報を提供しています。今後も探査機による観測やデータ分析が進むことで、この謎めいた火星の火山に関するさらなる知見が得られることが期待されています。

参考資料

• - 火星の地質学に関する一般的な文献

外部リンク

• - Google Mars上のアルボル・トロス画像など、関連するオンライン資料

もう一度検索