アレキサンダー・マッケンジー (カナダ首相)

スコットランドのパースシャー（現パース・アンド・キンロス）のログライット村に、父アレキサンダーと母メアリー・ステュアート・フレミングの間に第三子として誕生したアレキサンダー・マッケンジー（1822年1月28日 - 1892年4月17日）は、後にカナダの歴史において重要な足跡を残す人物となります。パース、ピトロッホリー、ダンケルドの公立学校で基礎教育を受け、若い頃から建築請負人として生計を立てました。

1842年、20歳を迎えたマッケンジーはカナダへ渡航します。この新天地で、彼は自身の信仰を長老派教会からバプテスト教会へと改め、オンタリオ州で盛んだった禁酒運動に深く関わっていく中で政治への関心を高めていきました。バプテスト教会の影響力が強かったこの地域からカナダ議会議員選挙に出馬し、見事当選を果たします。

私生活では、1845年にヘレン・ニールと結婚し、3人の子をもうけましたが、妻ヘレンと2人の子を相次いで失うという辛い経験をしました。その後、1853年にジェーン・マッケンジーと再婚しています。

マッケンジーがカナダの首相となる契機は、1873年にジョン・A・マクドナルド率いる保守党政権が「パシフィック・スキャンダル」によって崩壊したことでした。当時の自由党には明確な指導者が不在でしたが、カナダ総督ダファリン伯爵から組閣の要請を受けたマッケンジーは、この重責を引き受けることを決断します。彼は暫定政権を樹立し、1874年1月に解散総選挙を実施。この選挙で自由党は大勝し、マッケンジーはカナダ初の自由党党首出身の首相として、1873年から1878年までの約5年間、国政を担いました。

首相としてのマッケンジーは、政府機構の改革と効率化に尽力しました。彼の政権下では、カナダの国家基盤を強化するためのいくつかの重要な制度が導入されています。特に挙げられる功績としては、選挙における公正性を高めるための秘密投票（無記名投票）の導入があります。これはカナダの民主主義において大きな前進となりました。

また、カナダの司法制度の確立においても、マッケンジーの貢献は計り知れません。彼は1875年にカナダ最高裁判所（Supreme Court of Canada）を設立し、国の最高司法機関としての地位を与えました。これにより、国家としての司法権が明確に確立されました。彼は初代最高裁判所長官を含む複数の判事を任命しています。

教育分野では、1874年にオンタリオ州キングストンにカナダ王立軍事大学（Royal Military College of Canada）を設立し、国の防衛を担う将来の士官育成機関を創設しました。さらに、政府の透明性と説明責任を高めるため、1878年には総督の会計監査職を設置しています。

一方、国家的なインフラプロジェクトであったカナダ太平洋鉄道の建設に関しては、着手したものの、その推進方法を巡って野党との間で激しい論争となりました。マッケンジーは公共事業における不正防止のため、民間企業による競争入札を重視する方針を取りましたが、これが計画の遅れを招いたとの批判も受けました。

1878年の総選挙で保守党に敗北し、首相の座を失った後も、マッケンジーは政界に留まりました。1880年までは自由党の野党指導者として活動し、後任をエドワード・ブレイクに譲ります。その後も死去する1892年まで、下院議員として国民のために働き続けました。1892年4月17日、トロントで脳卒中のため70歳で死去。遺体はオンタリオ州サーニアのレイクビュー墓地に埋葬されました。

マッケンジーの遺産は、現在もカナダ国内に数多く残されています。彼が設立に関わったカナダ王立軍事大学には、その功績を称え「マッケンジー・ビルディング」と名付けられた建物があります。また、オンタリオ州のいくつかの高校も彼の名にちなんで名付けられています。

晩年にカナダの首相からナイトの爵位を打診された際、彼はこれを全て辞退したというエピソードは有名です。1920年にアーサー・ミーエンが首相に就任するまでの間、ナイト位を受けなかった唯一のカナダ首相であったことは、彼の飾らない人柄や、名誉よりも実務を重んじる姿勢を示すものと言えるでしょう。カナダ最高裁判所の設立や選挙制度の改革など、マッケンジーが国家の制度設計に残した功績は、現代カナダの礎となっています。

もう一度検索