アレクサンドリアの聖カタリナ (アルテミジア・ジェンティレスキ)

アルテミジア・ジェンティレスキ作『アレクサンドリアの聖カタリナ』は、1615年から1617年頃に制作された油彩画であり、イタリア・バロック美術を代表する作品の一つです。この絵画は、キリスト教の聖人であるアレクサンドリアの聖カタリナを主題とし、彼女の信仰と殉教の物語を描いています。現在、この作品はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されており、多くの人々を魅了し続けています。

主題と背景

聖カタリナは、4世紀のアレクサンドリアの王女であり、その知性と信仰の強さで知られています。彼女はローマ皇帝マクセンティウスの迫害にも屈せず、キリスト教の信仰を貫きました。彼女は皇帝が招聘した学者たちを論破し、激怒した皇帝によって投獄されます。拷問器具である車輪で処刑されそうになった際、奇跡的に車輪が破壊され助かりますが、最終的には斬首刑に処せられました。この殉教の物語は、彼女をキリスト教の重要な聖人として崇める基盤となっています。破壊された車輪は、聖カタリナの象徴的なアトリビュートとして、後の美術作品にも頻繁に描かれています。

作品の特徴

この絵画において、聖カタリナは暗い背景の中で四分の三正面像で描かれています。彼女は頭に王冠を戴き、天を見上げています。左手には鋭いスパイクがついた車輪を持ち、右手には殉教を象徴するナツメヤシの葉を胸に当てています。右側から差し込む強い光が、彼女の肩、首、左腕の白い肌を照らし出し、劇的な効果を生み出しています。この光の表現は、カラヴァッジョの影響を強く受けていることを示しています。

アルテミジアがこの作品を制作した時期は特定されていませんが、美術史家はシエーナ総督カテリーナ・ディ・フェルディナンド・デ・メディチがフィレンツェにいた頃だと考えています。当時、メディチ家の宮廷の庇護を求める芸術家たちが多く、美しさと謙虚さで知られる聖カタリナを描いた作品が人気を博しました。また、聖カタリナの王冠の図像は、第3代トスカーナ大公フェルディナンド1世・デ・メディチのために制作された王冠との類似性も指摘されています。

制作過程と発見

2019年、絵画の科学調査によって、アルテミジアが制作過程で構図を変更したことが明らかになりました。当初の下絵では、ターバンを巻いた人物が鑑賞者の方を向いている構図でしたが、最終的な作品では異なる聖カタリナの姿が描かれています。また、ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵の『アレクサンドリアの聖カタリナとしての自画像』との比較研究により、両作品に同じカルトンや下絵が使用された可能性が高いことが判明しました。これは、アルテミジアが自らをモデルとして女性殉教者のイメージを描いた可能性を示唆しています。

X線撮影では、最終バージョンで塗りつぶされた第三の顔の存在が明らかになっており、アルテミジアが以前に描いたものを再利用したことを示しています。美術史家は、最終的に描かれた女性像は、カテリーナ・デ・メディチ、マリーア・マッダレーナ・ダウストリア、または画家自身を描いた可能性を示唆しています。

作品の来歴

この作品の初期の来歴は不明ですが、1683年までフィレンツェ郊外にあるアルティミーノのメディチ荘のメディチ家のコレクションに所蔵されていたことが分かっています。その後、1890年までフィレンツェのアカデミア美術館、さらに1989年まではフィレンツェ美術館監督局に移され、最終的にウフィツィ美術館に収蔵されました。1966年に大規模な修復が行われ、かつては状態が悪かった絵画は修復されました。しかし、1993年のゲオルゴフィリ通り爆破事件によって再度損傷を受けましたが、その後再び修復されました。

まとめ

『アレクサンドリアの聖カタリナ』は、アルテミジア・ジェンティレスキの卓越した技量と、聖カタリナの力強い信仰を描いた傑作です。その劇的な光の表現や、制作過程における発見は、この作品をより深く理解する上で重要な要素となっています。ウフィツィ美術館を訪れた際には、ぜひこの作品を鑑賞し、その魅力を感じてみてください。

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