アングライト

アングライト

アングライト（Angrite）は、隕石の中でも特に希少な分類の一つであり、ストーン隕石の主要なグループであるエイコンドライトに属します。地球上の岩石に似た分化した組成を持つことから、その起源天体の進化を知る上で重要な手がかりを提供しています。

構成鉱物

この隕石の組成は特徴的で、主に普通輝石（ディープサイド）で構成されています。この他、オリビン（カンラン石）、長石の一種である灰長石（アノーサイト）、そして硫化鉄鉱物であるトロイリ鉱といった鉱物が含まれています。これらの鉱物の組み合わせは、地球の火成岩である玄武岩に類似した特徴を示しますが、アングライトには地球の岩石には見られない独特の鉱物相や組織が見られることもあります。

命名の経緯

アングライトという名称は、この分類の模式標本である「アングラ・ドス・レイエス隕石（Angra dos Reis）」に由来しています。この隕石は1869年にブラジルのリオデジャネイロ州アングラ・ドス・レイエス近郊に落下しました。歴史的に最初の発見例であり、その独特な岩石学的特徴から、新たな隕石分類として確立されるきっかけとなりました。

岩石学的特徴

アングライトの岩石学的特徴は、地球で見られる玄武岩と多くの共通点を持っています。しばしば、ガスが抜けた際にできたと思われる最大2.5センチメートルほどの比較的大型な空隙（孔）が見られることがあります。このアングライトが特に注目される理由の一つは、その形成年代にあります。放射性同位体を用いた年代測定の結果、約45.5億年前に結晶化したことが分かっており、これは太陽系が誕生して間もない頃にあたります。既知の隕石の中から発見された岩石としては、最も古い火成岩の一つとされており、初期太陽系の熱的な活動や微惑星の分化過程を知る上で非常に貴重な手がかりを提供しています。

起源に関する説

アングライトの起源天体については、現在も研究が進められています。その反射スペクトルを小惑星帯の天体と比較した研究では、ネネッタ（44 NY）やロビンソン（1976 WA）といった特定の小惑星が起源の候補として挙げられています。これらの小惑星の表面組成がアングライトに類似している可能性が指摘されています。一方で、より近年の研究では、水星からの噴出物である可能性を示唆する研究者も存在します。水星表面の組成や地形には火山活動の痕跡が見られ、アングライトの組成や年代が水星の進化と関連付けられるという説です。しかし、現時点では決定的な証拠はなく、アングライトの正確な起源は未解決の謎となっています。

代表的なアングライト隕石

現在までに、世界中で12個のアングライトが発見され、正式に分類されています。最も有名なものは、分類の基となったアングラ・ドス・レイエス隕石（発見時重量11.5 kg）です。この隕石はアングライトとして4番目に大きい標本とされています。最も重いアングライトは、アルゼンチンで発見されたドルビニ隕石（D'Orbigny）で、その重量は16.55 kgに達します。その他にも、モロッコのサハラ砂漠で発見された「Sahara 99555」（発見時重量2.71 kg）や、アフリカ北西部で見つかった「NWA 4931」（発見時重量2.14 kg）などがあります。これらの限られた標本が、アングライトという希少な隕石の研究材料となっています。

アングライトは、その古さ、独特の組成、そして起源の謎から、地球惑星科学や宇宙化学の分野で非常に重要な研究対象となっています。これらの隕石を分析することで、太陽系初期の惑星形成や分化に関する貴重な情報を得ることができるのです。

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