カンラン石

カンラン石：地球のマントルと宝石を繋ぐ鉱物

カンラン石は、ケイ酸塩鉱物の一種で、地球科学において非常に重要な役割を果たす鉱物です。その美しい緑色の結晶は宝石としても珍重され、ペリドットとして知られています。本稿では、カンラン石の多様な側面に迫り、その特徴や用途、地球科学的な意義について解説します。

カンラン石の組成と種類

カンラン石は、マグネシウムと鉄を主成分とするネソケイ酸塩鉱物です。苦土橄欖石（フォルステライト）と鉄橄欖石（ファイアライト）は、その主要な構成鉱物であり、両者の比率によって様々な組成のカンラン石が存在します。他に、マンガンを主成分とするテフロ石や、カルシウムとマグネシウムを含むモンチセリ橄欖石など、いくつかの種類が知られています。

それぞれのカンラン石は、化学組成の違いによって色や硬さ、比重などが異なります。苦土橄欖石は白色から黄緑色で硬度7、比重3.2程度であるのに対し、鉄橄欖石は褐色から黒色で硬度6.5、比重4.4と、より暗く硬く比重も大きくなります。テフロ石は灰色がかった色合いを示し、モンチセリ橄欖石は白色から灰色がかった緑色をしています。これらの違いは、カンラン石が形成された環境や条件を反映しています。

カンラン石の産出と地球外での発見

カンラン石は、玄武岩などの塩基性岩や超塩基性岩に豊富に含まれています。特に、カンラン岩と呼ばれる岩石はカンラン石を主要構成鉱物としており、地球マントルの主要成分であると考えられています。カンラン石の約50％はノルウェーで採掘され、日本やスペインなども主要な産出国です。

驚くべきことに、カンラン石は地球以外にも存在が確認されています。月や火星からの隕石、そして日本の小惑星探査機はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワのサンプルからも発見されており、地球以外の天体におけるカンラン石の分布を知る上で重要な手がかりとなっています。さらに、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡による観測では、星が生まれる前のガス雲中からもカンラン石が検出されており、宇宙におけるカンラン石の普遍性を示唆しています。

カンラン石の性質と特徴

カンラン石は、一般式(Mg,Fe)2SiO4で表され、少量のMn、Ni、Tiなどを含むこともあります。斜方晶系に属し、ガラス光沢をもち、色は黄緑色が多いですが、組成によって変化します。比重は3.2～3.8、モース硬度は7と、比較的硬い鉱物です。

カンラン石の高圧多形と風化

カンラン石は、高圧環境下で結晶構造が変化します。高圧型鉱物であるウォズレアイト、さらに高圧型であるリングウッダイトへと相転移します。一方、地表では風化しやすい鉱物です。二酸化炭素と反応しやすく、特に水が存在する環境下では、滑石を含む蛇紋岩へと変化します。海洋プレートの沈み込み帯では、高圧高温の熱水と反応して蛇紋岩化し、この過程が地震発生の一因となる可能性も指摘されています。

カンラン石の用途

カンラン石は、その性質を活かして様々な用途に利用されています。

宝石: 特に、緑色で美しい苦土橄欖石はペリドットとして宝石として利用されます。
耐火物: 砕いて砂状にしたオリビンサンドは、鋳物砂として使用されます。その耐火性は非常に高く、SK37-38の耐火性があります。
溶鉄造滓材: MgOの作用により、鉄以外の滓（スラグ）を分離するのに利用されます。
二酸化炭素吸収: 水中で二酸化炭素と急速に反応する性質から、Project Vestaという温暖化対策プロジェクトで、砕いたカンラン石を浜辺に敷き詰める試みが行われています。ただし、この方法の有効性や環境への影響については議論が続いています。
* その他: コンクリート用骨材、肥料、護岸などにも使用されています。

カンラン石の名前の由来

カンラン石の名前は、ラテン語のoliva（オリーブ）に由来します。そのオリーブ色（濃緑色）が名前の由来です。日本では、1790年にヴェルナーによって命名され、地質調査所の研究者によって「橄欖石」と訳されました。面白いことに、「橄欖」はオリーブとは異なる植物であり、誤解から生まれた名称と言われています。

まとめ

カンラン石は、地球のマントルを構成する主要な鉱物であり、宝石、耐火物、環境対策など、幅広い用途を持つ重要な資源です。その地球科学的な意義、そして多様な性質と用途を知ることで、カンラン石という鉱物への理解が深まるでしょう。

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