アンソニー・ブルック

アンソニー・ウォルター・デイレル・ブルック：サラワク王国の王太子、激動の生涯

アンソニー・ウォルター・デイレル・ブルック（1912年12月10日 - 2011年3月2日）は、サラワク王国のラージャ・ムダ、すなわち王太子でした。彼は、サラワク王国の歴史における重要な人物であり、その生涯は、王位継承をめぐる複雑な事情、第二次世界大戦への従軍、そしてサラワクのイギリスへの割譲に対する抵抗運動など、激動に満ちたものでした。

生い立ちと王太子指名

アンソニーは、サラワク王国の第3代ラージャ（藩王）ヴァイナー・ブルックの弟バートラム・ブルックと、イギリスのビスケットメーカー、ハントレー・アンド・パーマーズの経営者である初代準男爵ウォルター・パーマーの娘グラディス・ミルトン・パーマーの間に生まれました。彼はイギリスで教育を受け、イートン・カレッジ、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院で学びました。その後、サラワク王国に渡り、公務員や判事として働きました。

1937年、アンソニーは伯父であるヴァイナーから、ラージャ・ムダ（王太子）に指名され、殿下の敬称を授けられました。しかし、1941年には、ヴァイナーと政府高官の妹との結婚をめぐる争いに巻き込まれ、王太子の称号と敬称を剥奪され、サラワクから追放されてしまいます。

第二次世界大戦と復権、そして再びの剥奪

第二次世界大戦中、アンソニーはイギリス陸軍に入隊し、東南アジア司令部の情報部隊に所属しました。大戦終結後、一時的にラージャ・ムダの称号を回復しますが、1945年には再び剥奪されるという、目まぐるしい状況に置かれます。

サラワク割譲への抵抗と晩年

1946年、ヴァイナーはラージャを退任し、サラワクをイギリスに割譲しました。アンソニーは、この割譲に強く反対し、先住民の議員らとともに抵抗運動を繰り広げました。彼はシンガポールを拠点に運動を指揮しましたが、1948年にサラワク総督が暗殺される事件が発生し、アンソニーも関与を疑われるなど、困難な状況が続きました。その後、アンソニーは抵抗運動から撤退し、イギリスに戻りました。晩年は平和活動に尽力し、1982年には平和活動家のブリジッド・ケラーと結婚、ニュージーランドに移住しました。

死後の名誉回復

2011年、アンソニーは98歳で亡くなりました。死後、イギリス政府は、彼が総督暗殺事件とは無関係であったことを公式に認め、謝罪しました。2013年には、彼の遺灰がサラワクのブルック家墓地に埋葬され、名誉が回復されました。

家族

アンソニーは、キャサリン・メアリー・ハッデンとの間に3人の子供をもうけましたが、後に離婚しました。息子の一人であるジェームズ・バートラム・ライオネル・ブルックは、サラワク協会の終身会員であり、ブルック・トラストの議長を務めました。アンソニーの孫であるジェイソン・デズモンド・アンソニー・ブルックは、英文学と国際紛争学を学び、現在もブルック家の歴史とサラワクの文化を伝える活動を行っています。

アンソニー・ウォルター・デイレル・ブルックの生涯は、サラワク王国の激動の歴史を象徴するものであり、彼の遺産は、今もなお、サラワクの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索