アンタキヤ

アンタキヤ：歴史と文化の都、そして地震の傷跡

アンタキヤは、トルコ最南端のハタイ県に位置する都市です。古くはアンティオキアとして知られ、紀元前4世紀、セレウコス朝によって建設されたヘレニズム都市として栄華を極めました。オロンテス川沿いの肥沃な渓谷に位置するアンタキヤは、レバント海からも比較的近く、地理的にも恵まれた場所にあります。

古代からの歴史

セレウコス朝の首都として繁栄したアンティオキアは、紀元64年にはローマ帝国に征服され、その後、ローマ帝国最大の都市の一つに成長しました。シリア属州やコエレシリア州の首都として重要な役割を果たし、初期キリスト教の中心地としても知られています。新約聖書には、アンティオキアで「キリスト教」という名称が生まれたと記されています。ビザンツ帝国時代には、さらに教会的な重要性が増していきました。

しかし、7世紀にイスラム帝国の支配下に入ると、政治・経済・宗教の中心はダマスカスやアレッポなど内陸の都市に移り、アンティオキアの地位は徐々に低下していきました。その後も、東ローマ帝国、セルジューク朝、アンティオキア公国など、様々な勢力の支配を受け、1286年にはマムルーク朝の支配下に置かれました。オスマン帝国時代には、アレッポ州の一地方都市となりましたが、北アナトリアからのトルコ系住民の流入もありました。

複雑な帰属問題

第一次世界大戦後、アンタキヤの帰属問題をめぐっては、複雑な歴史が展開しました。当初はフランスの委任統治領シリアに編入されましたが、人口の過半数を占めるトルコ系住民によるトルコ編入運動が活発化しました。トルコ系住民は、この地方を古代のヒッタイト国家と関連づけて「ハタイ」と呼び、ハタイ人民党を結成して独立運動を展開しました。トルコ共和国の近代化改革の影響を受け、トルコ語をラテン文字で表記するなど、トルコ民族意識の高まりも運動を後押ししました。

1930年代には、フランスとトルコの間で激しい外交交渉が行われました。フランスはシリアの独立を承認しましたが、アンタキヤを含むアレクサンドレッタ県をシリア共和国に編入する計画を進め、これに対してトルコは国際連盟に提訴しました。最終的には、ハタイは独立した後、1939年にトルコに併合されることとなり、フランスはトルコとの関係悪化を避けるため、この決定を受け入れました。

2023年地震の被害

2023年2月、発生した大地震はアンタキヤに甚大な被害をもたらしました。多くの歴史的建造物が破壊され、街の景観は一変しました。地震によって失われた歴史的遺産の修復は、今後の大きな課題となっています。

アンタキヤの現在

2012年には、ハタイ県全域が大都市自治体に指定され、アンタキヤはハタイ大都市自治体の一部となりました。地震からの復興は長期にわたるものとなり、歴史的遺産の保護と街の再建が重要な課題となっています。かつて栄華を極めたアンティオキアの遺産を受け継ぎつつ、未来に向けて歩みを進めるアンタキヤの歩みは、今後も注目を集め続けるでしょう。

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