オロンテス川

オロンテス川：歴史と文化を育む大河

オロンテス川は、レバノンに源を発し、シリアを経てトルコへと流れる重要な河川です。アラビア語ではアシ川（نهر العاصي、Nahr al-ʿĀsī）と呼ばれ、「逆らう川」という意味を持ちます。この名は、地中海から内陸へ逆流しているように見えることや、流れが激しいことに由来すると言われています。

古代からの呼び名と地理的特徴

古代オリエントでは、ドラコ川、ティフォン川、アクシオス川など、複数の名前で呼ばれていました。アクシオスは地元での呼び名で、それが後にアラビア語の「アシ」へと変化したとされています。

オロンテス川は、レバノン山脈とアンチレバノン山脈の間のベッカー高原東側にある泉から湧き出します。そこから北へ流れ、地中海岸と並行して渓谷を形成し、シリアへと入ります。ホムス西郊には、世界最古のダムとされるホムス湖があり、紀元前1300年頃に建設され、現在も修繕を重ねて利用されています。

流域と主要都市

ホムスから下流は谷が広がり、ハマー付近は穀倉地帯となっています。さらに下流には広大な牧草地が広がり、古代都市アパメアやラリッサの遺跡が点在しています。川はジスル・アル＝ハディドの岩山で大きく西に曲がり、トルコ領に入り、アンタキヤ付近の平野を流れます。

トルコ領内では、アフリン川とカラ・ス川という二つの大きな支流が北から合流します。かつてアンティオキア湖があった場所を過ぎ、アンタキヤの北を回って南西方向へ流れ、渓谷を下り、サマンダーの南で地中海に注ぎます。

歴史的な役割

オロンテス川は、流れが急で航行には適していませんが、流域の地理的条件が歴史的に重要な役割を果たしました。特に、「谷が南から北にまっすぐ走る」という地形は、古代の主要な陸路を形成し、北のアナトリア、北東のアッシリア、アルメニアからの街道がアンティオキアで交わり、川沿いに南下してホムスで分岐していました。

このため、オロンテス川流域は多くの交易都市が栄え、同時に多くの戦いも繰り広げられました。紀元前1284年には、ラムセス2世のエジプト軍とムワタリのヒッタイト軍がカデシュ付近で激突（カデシュの戦い）、紀元前853年にはアッシリアとシリア諸国がカルカルの戦いを繰り広げました。637年には、イスラム帝国と東ローマ帝国・アラブ人キリスト教徒連合軍がアンティオキア付近で戦い、東ローマ帝国がアンティオキアを明け渡しました。

オロンテス川は自然の境界線としても機能しました。古代エジプトにとってはアムル人との北の境界線、フェニキアにとっては東の境界線となり、12世紀には十字軍のアンティオキア公国とムスリムのアレッポ政権の境界線となりました。

文化と生活

オロンテス川は、灌漑にはあまり利用されていませんが、ハマー付近では、川床が低いため、古代よりノーリアと呼ばれる水汲み水車が使われ、用水路に水を汲み上げてきました。流域の都市や村落は、川と共に歴史を歩み、文化を育んできました。オロンテス川は、単なる地理的な存在を超え、地域の歴史、文化、そして人々の生活に深く根ざした存在であると言えるでしょう。

まとめ

オロンテス川は、その独特な地理的特徴と歴史的な重要性から、古代から現代に至るまで多くの人々に影響を与えてきました。この川の流域を訪れることは、古代オリエントの歴史と文化に触れる旅でもあります。

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