アンダーカヴァー (ローリング・ストーンズのアルバム)

ローリング・ストーンズ『アンダーカヴァー』：80年代への挑戦と葛藤の記録

1983年、ローリング・ストーンズは『アンダーカヴァー』を発表しました。70年代後半からの活動の低迷期を経て、80年代に本格的に制作された最初のオリジナルアルバムであり、彼らにとって新たな転換点となる作品でした。

新たなサウンドと実験性

本作は、ミック・ジャガー主導のもと、「だらだらとしたセッションではなく、完全な新曲のみを収録する」という方針で制作されました。そのため、それまでのストーンズにはなかった実験的なアプローチが目立ちます。先行シングル「アンダーカヴァー・オブ・ザ・ナイト」ではヒップホップ、「トゥー・マッチ・ブラッド」ではラップを取り入れるなど、当時流行していた音楽を取り込みつつ、レゲエ、ダブ、アフリカン・ビートといった多様な要素も融合。複雑で洗練されたリズムが特徴です。また、多くの楽曲で電子ドラムが使用され、80年代らしい人工的なサウンドも強調されています。しかし、同時にストーンズ独特の生々しさも残されており、そのバランスが本作の魅力となっています。

制作過程：パリからニューヨーク、そしてバハマへ

レコーディングは1982年11月から始まり、パリ、バハマ、ニューヨークと、複数のスタジオを転々とする長期に渡るものでした。特にバハマでのレコーディングでは、チャーリー・ワッツとビル・ワイマンが参加せず、レゲエミュージシャンのスライ＆ロビーが起用されたことが注目されます。これは、当時ミック・ジャガーとキース・リチャーズの仲が悪化していたことと関係していると言われています。ジャガーはリチャーズを避け、バハマでの追加録音にはロン・ウッドのみを連れており、リチャーズとは一切接触しなかったという逸話も残されています。この制作過程での軋轢は、アルバムの音にも反映されていると言えるでしょう。

衝撃的なミュージックビデオとジャケット写真

「アンダーカヴァー・オブ・ザ・ナイト」、「シー・ワズ・ホット」、「トゥー・マッチ・ブラッド」の3曲にはプロモーションビデオが制作されました。売れっ子のジュリアン・テンプルを監督に迎え、手の込んだ演出が施されましたが、その内容は過激で、バイオレンスやグロテスクな描写、性的な表現が含まれていました。そのためMTVで放送禁止となり、ビデオクリップ集『ビデオ・リワインド』に収録されるにとどまりました。現在ではYouTubeで視聴可能です。

アルバムジャケットも目を引くものでした。青いカーテンの前で全裸のストリッパーが踊る写真を使用。胸部と局部はステッカーで隠されていますが、アメリカ版のみステッカーを剥がせる仕様になっていました。この写真は、ジャガーが50年代の風俗店をイメージして制作されたものです。

評価とその後

『アンダーカヴァー』は商業的には成功を収め、イギリスで3位、アメリカで4位を記録しプラチナアルバムに認定されました。しかし、前作を下回る結果となり、1969年の『レット・イット・ブリード』以来続いていた英米いずれかでの1位獲得記録も途絶えました。批評家の評価も必ずしも高くなく、「陰気くさく大げさで、支離滅裂なクソの欠片」といった酷評もありました。メンバー自身も、このアルバムを必ずしも高く評価しておらず、ジャガーは後に失敗作とみなしています。

このアルバムは、時代に合わせて積極的に変化を遂げようとしたジャガーと、自分たちのルーツを重視したいリチャーズの意識のずれを浮き彫りにした作品となりました。その後の活動にも影を落とし、続く『ダーティ・ワーク』では、この対立が決定的なものとなるのです。結果として、リスナーには中途半端な印象を与えてしまったと言えますが、「アンダーカヴァー・オブ・ザ・ナイト」、「シー・ワズ・ホット」、「ワナ・ホールド・ユー」などは、後のコンサートでも演奏され、コンピレーションアルバムにも収録されるなど、高い人気を保ち続けています。

収録曲

(以下、収録曲リストは省略します。入力情報に記載されている内容と重複するため)

レコーディングメンバー

(以下、レコーディングメンバーの情報は省略します。入力情報に記載されている内容と重複するため)

まとめ

『アンダーカヴァー』は、ローリング・ストーンズの80年代への挑戦と、その過程で生じた葛藤を凝縮した作品と言えるでしょう。商業的成功を収めつつも、メンバー間の不協和音や、過激な表現を取り入れた結果、必ずしも高い評価を得たとは言えませんでしたが、音楽史に大きな足跡を残したアルバムであることは間違いありません。現在でも、その実験的なサウンドや、複雑な制作過程、そして過激なミュージックビデオは、多くのファンを魅了し続けています。

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