レット・イット・ブリード

ローリング・ストーンズ『レット・イット・ブリード』：激動の時代が生んだロックの金字塔

1969年、ローリング・ストーンズは『レット・イット・ブリード』を発表しました。このアルバムは、バンドのキャリアにおいて、そしてロック史においても重要な位置を占める作品です。前作『ベガーズ・バンケット』と並んで彼らの最高傑作と称賛され、今日なお、ロックアルバムの古典として高く評価されています。

制作背景：変化の渦中

『レット・イット・ブリード』のレコーディングは、1968年11月から始まり、ロンドンのオリンピック・スタジオとハリウッドのワーナー・ブラザース・スタジオを使用しました。この期間は、バンドにとって激動の時代でした。まず、創設メンバーであるブライアン・ジョーンズが脱退。彼の最後の参加作品がこのアルバムとなり、ジョーンズと後任のミック・テイラーが共に参加した唯一のアルバムでもあります。しかし、ジョーンズの貢献は最小限で、ギター演奏はキース・リチャーズが中心となっています。また、このアルバムでは、リチャーズが初めてリードボーカルを担当した楽曲も収録されています。

ミック・ジャガーと恋人のマリアンヌ・フェイスフルが麻薬所持で逮捕された事件や、ジョーンズの悲劇的な死など、レコーディング期間中にも様々な出来事が発生しました。これらの出来事は、アルバムに反映されていると見る向きも多いです。歌詞の内容は、戦争、レイプ、殺人、麻薬中毒と、非常にダークで、当時の社会情勢とバンド内部の混乱が複雑に絡み合っていると言えるでしょう。ジャガー自身も、ベトナム戦争の影響を認めています。

さらに、このアルバムのレコーディングセッションでは、多くのセッションミュージシャンが参加しました。ニッキー・ホプキンス、ライ・クーダーなど、錚々たるメンバーがストーンズのサウンドに彩りを添えています。セッションで録音された未発表音源は、後に他のアルバムや編集盤に収録されています。

音楽性：多様なサウンドとメッセージ

『レット・イット・ブリード』は、多様な楽曲から構成されています。ブルース、カントリー、ロックンロールなど、様々な要素が融合し、ストーンズ独特のサウンドを作り上げています。有名な「ギミー・シェルター」は、ベトナム戦争の激しさを反映した、緊迫感に満ちた楽曲です。一方、「ユー・ガット・ザ・シルヴァー」はリチャーズの繊細なボーカルが印象的なバラードです。ロバート・ジョンソンのカバー「むなしき愛」や、アルバムタイトル曲「レット・イット・ブリード」など、バラエティに富んだ選曲も魅力の一つです。

アルバムジャケットに描かれたケーキは、著名な料理家デリア・スミスによるもの。レコードの内袋には、ステレオ盤は青、モノラル盤は赤でクレジットが記載され、このアルバムがストーンズのスタジオアルバムで最後のモノラル盤となりました。「このレコードは大音量で再生すべし」というメッセージからも、アルバムの力強さが伝わってきます。

反響と評価：時代を超えた名盤

『レット・イット・ブリード』は商業的にも成功し、イギリスではチャート1位、アメリカでも3位を記録しました。評論家からの評価も非常に高く、様々な音楽誌で高く評価されています。ローリングストーン誌の選ぶオールタイム・ベストアルバム500にもランクインしており、時代を超えて愛される名盤として、その地位を確固たるものとしています。

リイシュー：様々なフォーマットで再発

近年、このアルバムは幾度もリマスターされ、SACD、ハイブリッドCD、そして2019年には50周年記念エディションとして、様々なフォーマットで再発されています。中には、モノラルミックスや、豪華なブックレット、ポスター、シングルレコードなどが付属する豪華版もあります。これらは、このアルバムに対する根強い人気と、その歴史的な重要性を示しています。

『レット・イット・ブリード』は、単なるロックアルバムではありません。激動の時代を背景に、バンド自身の苦悩や葛藤、そして社会への鋭い視線が凝縮された、まさにロックの金字塔と言える作品です。その力強いサウンドとメッセージは、今もなお多くのリスナーを魅了し続けています。

もう一度検索