トゥー・マッチ・ブラッド

ローリング・ストーンズの楽曲「トゥー・マッチ・ブラッド (Too Much Blood)」は、1983年発表のアルバム『アンダーカヴァー』に収録されています。ミック・ジャガーとキース・リチャーズによって作詞作曲されたこの曲は、アルバムの中でも異彩を放つ、7分を超える長尺のダンスナンバーです。

この曲の最大の特徴は、そのサウンドにあります。ヒップホップとポスト・ディスコの影響を色濃く受け継ぎ、ストーンズの従来のスタイルとは一線を画す、独特のグルーヴ感を醸し出しています。ジャガーは曲中でラップに挑戦するなど、実験的な試みも取り入れられています。

歌詞の内容は、衝撃的です。1981年にパリで発生した佐川一政によるパリ人肉事件と、1974年のホラー映画『悪魔のいけにえ』がモチーフとなっていると言われています。この猟奇的なテーマが、楽曲全体に陰鬱で不穏な雰囲気を与えています。興味深いことに、『アンダーカヴァー』のレコーディングはパリで行われ、ジャガーらは事件現場の近くを通っていたという逸話も残っています。

サウンド面では、チョップスによるホーンセクションと、スライ&ロビーのスライ・ダンバーらを始めとしたパーカッションが、曲に独特のうねりを生み出しています。ギターには、ストーンズのギター・テクニシャンだったジム・バーバーが参加。彼はその後、ジャガーのソロアルバム『プリミティヴ・クール』にも参加しています。キース・リチャーズとロン・ウッドに加え、3人のギタリストによる重厚なサウンドが楽曲を支えています。

さらに、「トゥー・マッチ・ブラッド」には、アーサー・ベイカーによるリミックスバージョンが存在します。これはアメリカ合衆国で12インチシングルとしてリリースされ、ダンスバージョンとダブバージョンの2種類があります。特にダンスバージョンは12分を超える演奏時間で、ストーンズの楽曲の中でも最長となります。しかし、CD化されていないため、現在ではレアトラックとなっています。また、ストーンズのコンサートでは一度も演奏されたことがありません。

ミュージックビデオは、ジュリアン・テンプル監督によって制作されました。歌詞の世界観を反映した、スプラッター映画を思わせる過激な内容で、キース・リチャーズとロン・ウッドがチェーンソーでミック・ジャガーを襲うシーンも含まれています。この衝撃的な映像は、アメリカでリリースされた12インチシングルのジャケットにも使用されました。過激な内容のため、一部の放送局では放送禁止となり、「アンダーカヴァー・オブ・ザ・ナイト」と同様に物議を醸しました。現在では、YouTubeのストーンズ公式ページで視聴可能です。

「トゥー・マッチ・ブラッド」は、その音楽性、歌詞、ミュージックビデオと、あらゆる面で衝撃的な作品です。ストーンズの幅広い音楽性を示す一曲として、そして、その過激さゆえに語り継がれる問題作として、音楽史にその名を刻んでいると言えるでしょう。この曲は、ストーンズの他の楽曲とは明らかに異なるアプローチがなされており、バンドの多様性を示す重要な作品と言えます。そのサウンドと歌詞、そしてミュージックビデオの組み合わせは、まさに時代を先取りした、実験的で挑発的な作品であったと言えるでしょう。

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