アンティノウス座

アンティノウス座

アンティノウス座（Antinous）は、現在は使用されていない星座の一つであり、かつて存在した星座としての独特な歴史を持っています。この星座は、ローマ皇帝ハドリアヌスによって創設されました。彼は自身が寵愛していた美青年アンティノウスの死を悼んでおり、当時は無名だったわし座の南側に位置する星々を使用してアンティノウス座を設けました。

成立の背景

ハドリアヌス帝の時代、アンティノウスの追憶は特に重視され、星座の創設に至ったのです。トレミーの『アルマゲスト』によると、アンティノウス座は現在のわし座に属するη星、θ星、δ星、ι星、κ星、λ星の6つの星で構成されていました。この星座は、トレミーが記した48の星座には含まれていませんが、歴史的には重要な存在とされていました。

中世に入ると、アンティノウス座は忘れ去られていきましたが、1536年にドイツの数学者カスパル・フォペルが天球儀に描くことで再び注目されることとなりました。この立体的な描画は、数年後にオランダの地図学者ゲラルドゥス・メルカトルによっても取り入れられました。その結果、アンティノウス座は再びその名を広めることになりました。

独立した星座としての扱い

1602年、天文学者ヨハネス・ケプラーは著書『Astronomiae Instauratæ Progymnasmata』を発表し、アンティノウスをわし座とは別個の星座として記載しました。このことがきっかけで、17世紀にはロンゴモンタヌスの『Astronomica Danica』やケプラーの『ルドルフ表』など多くの著名な星図で独立した星座として扱われるようになりました。しかし、18世紀に入ると、アンティノウスと鷲が同一視される場合も増えていきました。

イギリスの天文学者ジョン・フラムスティードは1725年に、アンティノウスを含む名称を使い分け、「Aquila Antinous」や「Aquila cum Antinoo」といった異なる呼び名を示しました。また、ドイツの天文学者ヨハン・ボーデは1782年の著作で、アンティノウス座を鷲と一緒に扱うことを選びました。

星座の消滅

19世紀に入ると、次第にアンティノウスはわし座の一部と見なされるようになり、独立した星座としての扱いは減少しました。この動きは、ドイツの天文学者フリードリヒ・ヴィルヘルム・アルゲランダーやイギリスのフランシス・ベイリーによっても支持されました。1876年にはリチャード・アンソニー・プロクターの著作でも、やはりアンティノウスはわし座の一部とされました。アメリカの博物学者リチャード・ヒンクリー・アレンも、1899年にその存在を否定的に捉えました。

1922年に国際天文学連合が現在の88星座を制定した際、アンティノウス座は再び公式には選ばれず、当時の領域はわし座として定義されました。このように、アンティノウス座には様々な歴史的経緯があり、愛の象徴として創設されながらも、時を経て消失してしまったことが分かります。

結論

アンティノウス座は、ハドリアヌス皇帝と彼の愛した青年との物語を秘めた星座です。その歴史を紐解くことで、星座の背景にある人間の感情や文化の影響がいかに深いものであるかを再認識することができます。

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