アントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ヴェッキオ

アントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ヴェッキオ（Antonio da Sangallo il Vecchio, 1453年頃 - 1534年）は、盛期ルネサンスを代表する建築家の一人です。兄ジュリアーノ・ダ・サンガッロも建築家として知られ、しばしば共同で作品を手がけました。甥にも同名のアントニオがいたため、区別するために「イル・ヴェッキオ（年長者）」と呼ばれています。

サンガッロ家と初期の活動

サンガッロ家は、フィレンツェで建築家、彫刻家、細工師、画家を輩出した名門でした。元々はフィレンツェのサン・ガッロ門近くに住むジャンベルティ家とコルディアーニ家の通称でしたが、1480年代からこの名で知られるようになりました。アントニオは、兄ジュリアーノとともに、建築家フランチェスコ・ディ・パオロ・ジャンベルティの子として生まれました。彼は、父と親しい関係にあった木細工師で城塞建築家でもあるフランチェスコ・ディ・ジョヴァンニ・ディ・フランチェスコに師事しました。

ジュリアーノがメディチ家の仕事を依頼されるようになると、アントニオもこれを補佐するようになりました。その後、ローマで教皇庁の仕事を行う中で、彼はアレクサンデル6世に仕えることになります。また、ジュリオ・デ・メディチは、7歳になるまでサンガッロの家で育てられ、後に教皇クレメンス7世となりました。このことからも、サンガッロ家が当時の社会において、有力な立場にあったことがうかがえます。

ローマとフィレンツェでの活躍

1495年、ハドリアヌス霊廟（サンタンジェロ城）の改修に教皇はアントニオを参加させ、その才能を発揮しました。この仕事の成功により、チェーザレ・ボルジアからも信頼を得て、チヴィタ・カステッラーナ城塞の建設にも携わりました。しかし、ローマに長くとどまることはなく、1495年にはフィレンツェ市壁および城壁の建築家に任命されたこともあり、1503年には故郷に帰りました。1505年には、兄ジュリアーノに代わってアレッツォの城塞建設を指揮しています。この時期、彼は建築家としての確固たる地位を築いていきました。

1516年に兄ジュリアーノが亡くなった後、アントニオは磔刑像などの製作にも携わっていたことが知られています。1518年には、モンテ・プルチャーノで彼の最高傑作となるマドンナ・ディ・サン・ピアージョ聖堂の建設に着手しました。ここではさらに、アントニオ・ディ・モンテの邸宅も建設しています。また、フィレンツェでは、捨子保育院に向かい合う聖母マリア下僕会のロッジアの建設にも携わりました。これらの建築物は、彼の優れた設計能力と技術力を示すものです。

晩年と主要作品

晩年、アントニオは建築の第一線から退き、畑仕事をして過ごしましたが、1534年に生涯を終えました。彼の代表作であるマドンナ・ディ・サン・ピアージョ教会（モンテ・プルチャーノ）は、1518年に起工し、1529年に完成しました。ルネサンス建築の様式美を体現するこの聖堂は、現在も多くの人々を魅了し続けています。

主要作品

1518年起工・1529年完成　マドンナ・ディ・サン・ピアージョ教会（モンテ・プルチャーノ）

関連書籍

ピーター・マレー著、桐敷真次郎訳『図説世界建築史　ルサンス建築』（本の友社）ISBN 9784894391550
ジョルジョ・ヴァザーリ著、森田義之監訳『ルネサンス彫刻家建築家列伝』（白水社）ISBN 9784560039304
ニコラス・ペヴスナー他著、鈴木博之監訳『世界建築辞典』（鹿島出版会）ISBN 9784306041615

アントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ヴェッキオは、ルネサンス建築の発展に大きく貢献した建築家であり、その作品は今日においても高く評価されています。

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