アントニオ・マルゲリーティ

アントニオ・マルゲリーティは、1930年9月19日にローマで生まれ、2002年11月4日にヴィテルボ県モンテロージで72歳にてその生涯を閉じた、イタリア出身の多作な映画監督、脚本家、そしてプロデューサーです。特にアンソニー・M・ドーソン、あるいはアンソニー・ドーソンという別名義で多くの作品を発表したことで広く知られています。

人物とキャリア

マルゲリーティ監督がそのキャリアで手がけたジャンルは非常に多岐にわたり、SF、ホラー、マカロニ・ウェスタン、そしてアクション映画と、様々な分野で活躍しました。彼の作品の多くは、製作費を抑えたB級映画に分類されるものですが、中には『顔のない殺人鬼』、『幽霊屋敷の蛇淫』、『SOS地球を救え』、『惑星からの侵略』、『海底スパイ作戦』、そして『地球最終戦争』といった、後にカルト的な人気を獲得する作品も少なくありませんでした。

彼は「Io ti amo」（1968年）を除いて、ほとんど全ての作品でアンソニー・M・ドーソンやアンソニー・ドーソンといった変名を使用しました。イタリア人監督でありながら、これらの別名義を駆使し、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー、ユナイテッド・アーティスツ、20世紀フォックス、コロムビア映画といったアメリカ合衆国の主要な映画会社とも直接協力して作品を製作したことは、彼の国際的な活動範囲を示しています。一時、「アンソニー・デイジーズ」という名義の使用も試みましたが、響きに対する否定的な意見から、すぐに使用をやめたという逸話も残されています。また、彼は自身の監督作だけでなく、ポール・モリセイ監督の『悪魔のはらわた』や『処女の生血』では第二班監督を務めるなど、裏方としても重要な役割を果たしました。

長い活動歴の中で、彼の作品スタイルは時代の変遷を反映して進化しました。例えば、ホラー映画においては、キャリア初期のクラシックなゴシック・ホラーから、後年のより過激なスプラッター・ホラーまで、その表現方法は多岐にわたります。

特撮への情熱

マルゲリーティ監督のキャリアを語る上で特筆すべきは、特撮技術に対する並々ならぬ情熱です。彼は自前の工房を構えるほど特撮を愛しており、その技術を多くの作品で駆使しました。爆発シーンには大規模な屋外セットの精巧なミニチュアを使用したり、カーチェイスシーンではラジコンを活用したりするなど、独創的なアイデアで迫力ある映像を生み出しました。特に『ターボクラッシュ』では、アクションシーンの大部分でミニチュアを用いたと言われています。彼の特撮技術は業界内でも高く評価されており、あのスタンリー・キューブリック監督のSF映画金字塔『2001年宇宙の旅』においては、クレジットには名前がありませんが、特殊効果のエグゼクティブ・アドバイザーとして関与したと見られており、その技術力の確かさを示唆しています。

影響と継承

アントニオ・マルゲリーティの映画への情熱は、息子であるエドアルド・マルゲリーティにも受け継がれています。エドアルドは父親のもとで助監督を務めた後、『ブラック・コブラ2』や『ブラック・コブラ3』などで監督デビューを果たし、また父親の作品に俳優として出演した経験もあります。さらに、現代の著名な映画監督にも影響を与えています。イタリア映画への深い造詣で知られるクエンティン・タランティーノは、自身の監督作『イングロリアス・バスターズ』の中で、イーライ・ロス演じるキャラクターに「マルゲリーティ」という偽名を名乗らせるシーンを登場させており、これはマルゲリーティ監督への明確なオマージュであるとされています。

このように、アントニオ・マルゲリーティは、多岐にわたるジャンルで数多くの作品を生み出し、特に特撮技術への貢献や、様々な別名義を使い分ける個性的なスタイルで、イタリア映画史において独自の地位を確立した人物です。2002年に心筋梗塞のため72歳で死去しましたが、そのユニークな作品群は今なお多くの映画ファンに親しまれています。

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