アントニオ・ロセッティ

アントニオ・ロセッティは、18世紀後半のボヘミアが生んだ重要な作曲家であり、優れたコントラバス奏者としても活動しました。彼の名前については、かつてチェコ語名「フランチシェク・アントニーン・レスレル」やドイツ語名「フランツ・アントン・レスラー」を用いたとされていましたが、ロセッティ自身がこれらの名前を使った確証はなく、生涯を通じて「アントニオ・ロセッティ」と名乗ったと考えられています。このような名前を巡る混乱は、同時代の他の音楽家、特に類似した名前を持つ人物との混同を引き起こし、その生涯や作品の研究を複雑にする要因となっています。以降、本項では「ロセッティ」と記します。

生涯

ロセッティは1750年頃、現在のチェコ共和国にあたる北ボヘミアのリトムニェジツェで生まれました。少年期については詳しい資料が少ないものの、イエズス会の神学校で早期の音楽教育を受けたと推測されています。その後の若い頃の足取りも不明確な部分がありますが、1770年代初めにはロシアのオルロフ伯爵連隊で音楽家として勤務していた可能性があると伝えられています。このオルロフ伯爵は、1768年以降ロシア海軍の提督を務めたアレクセイ・グリゴリエヴィチ・オルロフ伯爵を指すものと考えられます。

彼のキャリアにおける転機は1773年でした。南ドイツ、シュヴァーベン地方の有力な領主であったエッティンゲン＝ヴァラーシュタイン侯爵の宮廷楽団にコントラバス奏者として参加し、ここで本格的に作曲活動を開始しました。楽団の中心メンバーとして活躍する傍ら、1777年にはロジーナ・ネーアと結婚し、三人の子供をもうけました。1781年には楽団から休暇を与えられ、約5ヶ月間パリに滞在します。このパリ滞在は彼の名声を大きく高める機会となりました。特に「コンセール・スピリチュエル」のような著名なコンサートシリーズで彼の作品が多数取り上げられ、翌1782年には6曲の交響曲が出版されました。ヴァラーシュタインに戻った後、ロセッティはドイツ語圏のみならずフランスでも卓越した作曲家として広く認められるようになりました。1785年、ヴァラーシュタイン宮廷楽団の楽長であった同郷のアントニーン・レイハがケルン選帝侯の宮廷楽長に転任しボンへ去ると、ロセッティがその後任となり、楽団の黄金期を築く上で重要な役割を果たしました。しかし、1789年にはメクレンブルク＝シュヴェリーン公の宮廷楽長に招かれ、居をシュヴェリーン近郊のルードヴィヒスルストに移しました。この地で新たな活動を期待されましたが、残念ながらその期間は短く、1792年 6月30日、偉大な音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの死から半年後にこの世を去りました。

作品

ロセッティは非常に多作な作曲家であり、その作品リストには40曲以上の交響曲や協奏曲、そして多数の声楽曲が含まれています。現在、彼の作品の中で最もよく知られ、演奏されるのは、いくつかのホルン協奏曲です。著名なモーツァルト研究家であるH.C.ロビンス・ランドンは、これらのロセッティのホルン協奏曲が、モーツァルトの同種の作品に影響を与えた可能性を指摘しています。ロセッティは独奏ホルン協奏曲だけでなく、2本のホルンのための協奏曲も複数作曲しており、これらはホルン奏者にとって重要なレパートリーとなっています。特に興味深いのは、かつて長らくヨーゼフ・ハイドンの作品と誤って認識されていた2本のホルンのための協奏曲変ホ長調（RWV C56Q）が、後の音楽学者スターリング・E・マリーの研究により、ロセッティの作品である可能性が極めて高いことが証明されたことです。

彼の教会音楽の中では、レクイエム（RWV H5）が特によく知られています。このレクイエムは、モーツァルトが亡くなった直後の1791年12月14日、プラハの聖ミクラーシュ教会で行われたモーツァルトの追悼式典で演奏されたことで有名です（ただし、ロセッティ自身はこの式典に出席していません）。この作品は、ロセッティがヴァラーシュタイン宮廷に仕えていた1776年、18歳で早世した侯爵夫人マリー・テレーゼのために作曲されたものでした。

ロセッティの作品を研究する上で、作品の真贋判定は難しい課題となることがあります。これは、彼が活動した時代に「フランチェスコ・クサヴェリウス・アントニウス・レスレル」（1746-1779）のように、名前が類似しており、経歴の一部が混同されやすかった他の音楽家が複数存在したためです。例えば、音楽評論家ダグラス・タウンゼントが1959年に、証拠資料なしに1746年生まれの「フランチェスコ・アントニオ・ロゼッティ」という名前を提唱し、これが一時的に広まりましたが、これは上記のフランチェスコ・クサヴェリウス・アントニウス・レスレルとの混同によるものであったことが後に明らかになっています。他にも、エステルハージ宮廷のヴァイオリン奏者アントニオ・ロセッティ（？-1791）や、ヤン・ヨゼフ・レスラー（1771-1813）など、同時代の同名・類似名の音楽家との混同は、ロセッティの生涯と作品を正確に理解する上での重要な注意点となっています。

作品目録

ロセッティの多岐にわたる作品を網羅的かつ体系的に整理した作品目録は、アメリカの音楽学者スターリング・E・マリーによって1996年に出版されました。現在、この目録は国際ロセッティ協会によって管理されており、RWV（Rosetti Werke Verzeichnis）という番号付けが公式に用いられています。RWVは作品の種類別に分類されており、RWV Aが交響曲、RWV Bが管楽パルティータ、RWV Cが協奏曲、RWV Dが室内楽、RWV Eが独奏鍵盤楽器曲、RWV Fが歌曲など、RWV Gがオラトリオなどの声楽アンサンブル、RWV Hが教会音楽、そしてRWV Iが消失作品に割り当てられています。これ以前には、オスカル・カウルが器楽作品に限定した作品目録を編集していましたが、現在はマリーによるRWVが標準的な目録として用いられています。

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