アンナ・ウェッセルズ・ウィリアムズ

アンナ・ウェッセルズ・ウィリアムズ：先駆的な女性病理学者

アンナ・ウェッセルズ・ウィリアムズ (1863年-1954年) は、アメリカ合衆国における女性科学者のパイオニアとして、そして卓越した病理学者として、20世紀初頭の医療史に大きな足跡を残しました。彼女は、ニューヨーク市保健局の診断研究所で、ジフテリア、狂犬病、猩紅熱、天然痘、インフルエンザ、髄膜炎など、多くの感染症の研究に携わり、その予防や治療に貢献しました。

激動の人生と医学への道

ニュージャージー州で生まれたウィリアムズは、教師としてキャリアをスタートさせますが、妹の死産をきっかけに医学の道へ転身します。ニューヨーク診療所の女子医学校を卒業後、ウィーン、ハイデルベルク、ライプツィヒ、ドレスデンなどヨーロッパの著名な大学で研鑽を積み、病理学と衛生学の専門知識を深めました。この決断には、当時の女性が医学分野で活躍することが非常に困難であった状況を克服する強い意志が見て取れます。彼女は、性別や出自に関わらず、個人の能力を最大限に発揮できる社会を目指していました。

ジフテリア研究と画期的な菌株分離

1894年、ウィリアムズはニューヨーク市保健局が設立したアメリカ初の公立診断研究所で働き始めます。そこで彼女は、ウィリアム・H・パーク所長と共にジフテリアの研究に取り組みました。この研究において、ウィリアムズはジフテリア菌の特異的な株を分離することに成功。この菌株は、ジフテリアの抗毒素の大量生産に利用され、ジフテリアの治療に革命を起こすことになります。この菌株は「パーク・ウィリアムズ8号株」と名付けられ、現在でも基礎研究に利用されているほど重要な成果でした。彼女は、共同研究者であるパーク所長との共同研究成果を素直に受け止め、共同名義での発表を自然に受け入れています。

狂犬病研究とネグリ小体検査法の改良

パリのパスツール研究所での研究経験を経て、ウィリアムズは狂犬病の研究にも着手。狂犬病ワクチンの開発に成功しただけでなく、狂犬病の早期診断法の開発にも挑みます。彼女は、狂犬病ウイルスに感染した動物の脳細胞に特徴的な変化（ネグリ小体）を発見しました。この発見は、イタリア人医師のアデルチ・ネグリによって先に発表されたため、ネグリ小体と呼ばれることになりましたが、ウィリアムズはネグリ小体を迅速に検出する画期的な染色方法を開発し、狂犬病の診断時間を大幅に短縮することに成功しました。この検査法は、30年以上にわたって標準的な診断方法として用いられました。

多岐にわたる研究活動と社会貢献

ウィリアムズはジフテリアや狂犬病以外にも、猩紅熱、トラコーマ、性病など、様々な感染症の研究に貢献しました。また、彼女は、第一次世界大戦中には陸軍省の訓練プログラムを指揮し、スペイン風邪のパンデミックにも取り組みました。さらに、ウィリアム・H・パークとの共著による『Pathogenic Micro-organisms』や『Who's Who Among the Microbes』といった影響力のある教科書を執筆し、後進の育成にも尽力しました。

女性科学者の先駆者としての功績

ウィリアムズは、数々の功績から多くの賞賛を受けました。1932年には、アメリカ公衆衛生協会検査部門の女性初の部門長に就任。その卓越した研究成果とリーダーシップは、女性科学者の地位向上に大きく貢献しました。1936年には、長年の功績を称え、ニューヨーク女性医学会から表彰されています。しかし、1934年には定年退職を余儀なくされ、そのキャリアに終止符を打ちました。それでも、90歳で亡くなるまで、科学への情熱を保ち続けました。彼女の功績は、多くの後続の女性科学者たちに大きな勇気を与え、現在の医学研究の発展に繋がる大きな影響を与え続けています。

主要著作

Williams, Anna Wessels; Lowden, May Murray (1906). The etiology and diagnosis of hydrophobia. [s.n.]
Park, William Hallock; Williams, Anna Wessels (1910, 1939). Pathogenic micro-organisms, including bacteria and Protozoa. Lea & Febiger.
Park, William Hallock; Williams, Anna Wessels (1929). Who's who among the microbes. Century.
Williams, Anna Wessels (1932). Streptococci in relation to man in health and disease. Baillière, Tindall & Cox; Williams & Wilkins.

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