トラコーマ

トラコーマ（Trachoma）

トラコーマは、クラミジア・トラコマチスという細菌によって引き起こされる感染症です。主に結膜と角膜に炎症を起こし、放置すると視力障害や失明に至る可能性があります。かつては日本でも流行しましたが、現在は衛生環境の改善や治療法の進歩により、先進国では稀な疾患となっています。しかし、発展途上国では依然として多くの人々が感染しており、世界的な健康問題となっています。

原因

トラコーマの主な原因は、細菌の一種であるクラミジア・トラコマチスへの感染です。感染経路は、主に以下の3つです。

直接接触: 感染者の目や鼻からの分泌物に直接触れることによる感染。
間接接触: 感染者の使用したタオルやハンカチなどを共有することによる感染。
媒介物: ハエなどの昆虫が、感染者の目や鼻からの分泌物を媒介することによる感染。

また、母親がクラミジアに感染している場合、出産時に産道で新生児に感染する垂直感染も起こりえます。

疫学

トラコーマは、衛生環境が整っていない地域や、水資源が不足している地域で多く発生します。特に、アフリカやアジアの発展途上国で流行が見られます。世界保健機関（WHO）の推計によると、2016年時点で、トラコーマによって失明または視覚障害を抱える人は約190万人に上るとされています。

日本では、かつてトラコーマが国民病と言われるほど流行しました。明治時代から昭和時代にかけて、特に学童の間で感染が拡大し、社会問題となりました。しかし、戦後の衛生状態の改善や、抗生物質の普及により、患者数は激減し、1983年にはトラホーム予防法が廃止されました。

症状

トラコーマの初期症状は、目の異物感、かゆみ、充血などです。進行すると、まぶたの裏側に小さなぶつぶつ（濾胞）ができたり、目やにが増えたりします。慢性化すると、まぶたが内側に食い込み、まつ毛が角膜を刺激するようになります（睫毛内反）。この状態が続くと、角膜に傷がつき、角膜潰瘍を引き起こし、最終的には失明に至る可能性があります。

垂直感染の場合、新生児に偽膜性結膜炎が見られることがあります。

治療

トラコーマの治療には、抗生物質が用いられます。テトラサイクリン、アジスロマイシン、ニューキノロン系の点眼薬や内服薬が効果的です。また、睫毛内反が起きた場合は、手術によってまぶたの向きを修正する必要があります。

予後

トラコーマは、早期に適切な治療を行えば、完全に治癒する可能性が高い病気です。しかし、治療が遅れると、視力障害や失明などの後遺症が残ることもあります。

予防

トラコーマの予防には、以下の対策が有効です。

手洗いを徹底する: 特に、目や鼻に触れる前には必ず手を洗いましょう。
タオルやハンカチを共有しない: 家族であっても、タオルやハンカチは共有しないようにしましょう。
顔を清潔に保つ: 毎日、清潔な水で顔を洗いましょう。
ハエの発生を防ぐ: ハエの発生源となるゴミや汚物を適切に処理しましょう。
上水道と下水道を整備する: 安全な水を利用できる環境を整備しましょう。

トラコーマは、適切な予防と治療によって克服できる病気です。発展途上国における衛生環境の改善や、早期発見・早期治療の普及が、トラコーマ撲滅への鍵となります。

もう一度検索