アンプト

アンプト（Anput）

アンプトは、古代エジプトの多神教における重要な女神の一柱です。特に死後の世界や葬送儀礼と深く関わる神として知られています。彼女の名前はヒエログリフではjnpwtと表記され、中エジプト語での発音は/ʔan.ˈpa.wat/あるいは/jan.ˈpa.wat/に近いと推測されています。この名前は、英語文献などではAnupet、Input、Inpewt、Yineputといった多様な綴りで目にすることがあります。古代エジプトの言葉では、この名前は著名な神であるアヌビス（jnpw）に対応する女性形として認識されており、男性名詞に女性化の接尾辞である「t」が付加されてjnpwtという形になったと考えられています。この語源的な関連性は、アンプトがアヌビスと密接な関係にあることを示唆しています。

アンプトの神話における位置づけは、主にアヌビスの配偶者、あるいは対を成す存在としての側面が強調されます。アヌビスは、ミイラ作りや墓所の守護、そして死者を冥界へ導く案内者、さらには魂の計量に立ち会う神として、古代エジプトにおいて非常に重要な役割を果たしていました。そのアヌビスと対になる女神であるアンプトもまた、死や冥界に関連する領域において一定の役割を担っていたと考えられています。古代エジプトの信仰体系においては、主要な男性神には対応する女性神が配偶者や共同者として存在することが多く、アンプトとアヌビスの関係もその典型と見なすことができます。彼女がアヌビスの女性形であるという名前の由来も、この夫婦神としての結びつきの強さを物語っています。

アンプトはまた、古代エジプトを構成していた行政区分であるノモス（州）の一つと関連付けられています。具体的には、上エジプトの第17ノモスにおいて、彼女はその地の名を持つ女神として信仰されていました。古代エジプトでは、それぞれのノモスに固有の守護神が存在することが一般的であり、アンプトが特定のノモスと結びつけられていることは、その地域における彼女の信仰が根付いていたことを示しています。上エジプト第17ノモスの中心地は、ナイル川西岸に位置する町、古代エジプト語でカサ、ギリシャ語でキュノポリス（「犬の町」の意）と呼ばれた場所であり、この地名がアヌビスやアンプトといった犬やジャッカルの姿を持つ神々との関連を示唆しています。

さらに、アンプトには冥界の支配者として知られる神、オシリスの身体を守護するという重要な役割も attributed されています。オシリスは、弟であるセトによってバラバラにされた後、妻イシスによってその身体が集められ、アヌビスによって最初のミイラとされたという神話を持ちます。このオシリスの身体は、冥界における彼の再生と支配の基盤となるため、その保護は極めて重要でした。アンプトがその身体の守護者とされることは、彼女がアヌビスと同様に、死後の世界や遺体保護といった葬送儀礼の領域において active な役割を担っていたことを示唆しています。アヌビスがミイラ作りの神としてオシリスの身体を扱った一方で、アンプトはその身体そのものを守る役割を担ったのかもしれません。これは、夫婦神が協力して一つの重要なタスクを分担する古代エジプト神話における典型的なパターンの一つとも解釈できます。

残念ながら、アンプトに関する独立した神話や祭祀に関する詳細は、夫であるアヌビスに比べて多くは伝わっていません。彼女の存在は、しばしばアヌビスに関連する文脈で言及されるにとどまります。しかし、彼女が特定のノモスの守護神であり、オシリスの身体の守護者という重要な役割を担っていたという事実は、古代エジプトにおける彼女の信仰が確かに存在し、特に地域レベルや特定の葬送儀礼において重要な意味を持っていたことを示しています。アンプトは、アヌビスという偉大な神の配偶者として、そして死と再生に関わる宇宙論の一部を担う女神として、古代エジプトの人々の信仰の中で一定の地位を占めていたと言えるでしょう。彼女の存在は、古代エジプトの神々がいかに多様な側面を持ち、互いに深く関連し合っていたかを示す一例と言えます。

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