アンリ＝ピエール・ロシェ

アンリ＝ピエール・ロシェ：芸術と愛に生きた作家

アンリ＝ピエール・ロシェ（Henri-Pierre Roché, 1879年5月28日 - 1959年4月9日）は、フランスのパリに生まれ、画商、美術品収集家、編集者として活躍しました。彼はまた、ダダイスム運動にも参加した作家としても知られています。74歳という晩年から、自身の恋愛体験をもとにした自伝的小説を発表し始め、生涯でわずか2作の小説を残しましたが、そのいずれもが映画化されるという特異な経歴を持っています。

生涯と芸術との出会い

20世紀に入ると、ロシェはパブロ・ピカソをはじめとするモンパルナスの若い芸術家たちと親交を深めました。また、フランシス・ピカビア、コンスタンティン・ブランクーシ、マルセル・デュシャンといった、当時の前衛芸術を牽引した人物たちとも親しく交流しました。特にデュシャンとは深い絆で結ばれ、彼の芸術活動に大きな影響を与えました。

1916年、ロシェはニューヨークに渡り、デュシャンとベアトリス・ウッドと共に、ダダイスムの雑誌『Blind Man』を創刊しました。この雑誌は、ダダイスムの思想を広める上で重要な役割を果たし、ロシェ自身もダダの作家として認知されるようになりました。

愛と文学

ロシェは生涯に二度結婚していますが、それ以外にも多くの女性と関係を持ち、その中にはマリー・ローランサンなどの著名人もいました。彼の恋愛遍歴は、彼の作品に大きな影響を与えています。

1953年、74歳にして処女作となる自伝的小説『突然炎のごとく』を発表しました。この作品は、3人の男女の愛と葛藤を描いたもので、登場人物のモデルについては様々な説があります。代表的なものとしては、デュシャン、ロシェ、ベアトリス・ウッドの三角関係、あるいはアポリネール、ロシェ、ローランサンの関係などが挙げられます。

1956年には、2作目の小説『二人の英国女性と大陸』を発表しました。こちらもまた、恋愛をテーマにした作品であり、ロシェ自身の経験が色濃く反映されています。

映画化と晩年

『突然炎のごとく』は、ジャンヌ・モロー主演、フランソワ・トリュフォー監督によって映画化され、世界中で大ヒットしました。この映画は、トリュフォーの代表作の一つとして知られていますが、ロシェは映画の公開を待つことなく、1959年に亡くなりました。

『二人の英国女性と大陸』も、1971年にトリュフォーによって『恋のエチュード』として映画化されています。トリュフォーは、ロシェの作品を高く評価し、彼の描く愛の世界を映像で見事に表現しました。

また、ロシェは自身の女性遍歴を綴った手帖（カルネ）をトリュフォーに遺しました。細かい字でびっしりと書き込まれた膨大な性の「観察記録」は、多くの女性に不快感を与え、出版のためにトリュフォーが雇った女性タイピストたちは次々と辞めていったというエピソードが残っています。この手帖の内容は、1977年にトリュフォーによって『恋愛日記』として映画化されました。

アンリ＝ピエール・ロシェは、芸術と愛に彩られた生涯を送り、その作品は今もなお多くの人々に感動を与え続けています。

著作

『突然炎のごとく』(Jules et Jim, 1953)
『二人の英国女性と大陸』(Deux Anglaises et le continent, 1958)

作品をもとにした映画

『突然炎のごとく』(1961) 監督：フランソワ・トリュフォー
『恋のエチュード』(1971) 監督：フランソワ・トリュフォー
『恋愛日記』(1977) 監督：フランソワ・トリュフォー
『シャルロット・ゲンズブール/愛されすぎて』(1992) 監督：ジャック・ドワイヨン

関連項目

ダダイスム
マルセル・デュシャン
フランソワ・トリュフォー

外部リンク

Association Jules et Jim

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