アンリ1世 (ラテン皇帝)

アンリ1世：ラテン帝国の知勇兼備の皇帝

アンリ1世（フランス語: Henri I, 1176年頃 - 1216年6月11日）は、第4回十字軍における重要な指揮官の一人であり、ラテン帝国の第2代皇帝（在位：1205年 - 1216年）としてその名を歴史に刻んでいます。エノー伯ボードゥアン5世とマルグリット・ダルザスの息子として、ヴァランシエンヌで生まれたアンリは、その生涯を通じて政治、軍事の両面で卓越した才能を発揮しました。

生い立ちと結婚

アンリは、1204年にモンフェッラート侯ボニファーチョ1世の娘アニェーゼと結婚しましたが、アニェーゼとの間に生まれた唯一の子は、母と共に早世しました。その後、ブルガリア皇帝カロヤン・アセンの死後にブルガリアと和平を結び、1213年にはカロヤンの娘マリヤと結婚しました。また、名前不明の愛妾との間には、後にロドピ山脈に国を築いたアレクシウス・スラヴの妻となる娘をもうけています。

第4回十字軍への参加

1201年頃、アンリは第4回十字軍に参加し、1203年のコンスタンティノープル包囲戦で目覚ましい活躍をしました。彼は8つの師団の一つを率い、兄のボードゥアン9世やヴェネツィア共和国のドージェエンリコ・ダンドロらと共に指揮を執りました。特に、1204年の包囲戦では、物資調達のため騎行遠征軍を率いて黒海近くのフィリアを襲撃し、東ローマ軍を打ち破り、聖遺物とされるイコンを奪還しました。この功績により、アンリはラテン帝国内で名声を確立しました。

ラテン帝国皇帝として

1205年、兄ボードゥアン9世がアドリアノープルの戦いでブルガリア軍に捕らえられると、アンリはラテン帝国の摂政に選出されました。その後、ボードゥアンの死が確認されると、アンリは皇帝位を継承し、1206年8月20日に戴冠しました。しかし、帝位を継承した当初、テッサロニキ王国のロンバルディア貴族はアンリへの忠誠を拒み、2年間の戦いの末にアンリは彼らを打ち破り、テンプル騎士団の城を没収しました。

アンリの治世は、ブルガリア皇帝カロヤン・アセンやニカイア帝国皇帝テオドロス1世ラスカリスとの戦いの中で進みました。彼はフィリッポポリスの戦いなど、多くの戦いで勝利を収め、小アジアにおける領土も拡大しました。1214年にはニカエア帝国と休戦条約を結び、平和裏にラテン帝国を独立させました。アンリは、帝国領内ではギリシャ人も平等に扱い、その寛容な政策は当時の歴史家にも称賛されています。また、教皇特使が正教会の聖職者を投獄した際には、コンスタンティノープルのギリシャ人聖職者の要請を受けてその命令を取り消しました。

アンリは勇敢かつ寛容な君主であり、聖職者の傲慢さにも屈しない強い意志を持っていました。しかし、1216年6月11日、テッサロニキの前摂政ウンベルト2世・ディ・ビアンドラーテによると、妃マリヤ・ブルガルスカの教唆によって毒殺されたとされています。

アンリ1世の死後

アンリの死後、義兄のピエール2世・ド・クルトネーが皇帝位を継承しましたが、コンスタンティノープルを訪れることはありませんでした。その後、アンリの姉ヨランドが摂政としてラテン帝国を統治し、その子供たちが後を継ぎましたが、最終的にラテン帝国は滅亡しました。

アンリ1世は、その治世において、軍事的な才能と政治的な手腕を遺憾なく発揮し、ラテン帝国の発展に大きく貢献しました。彼の寛容な政策は、ラテン帝国の歴史において特筆すべき出来事であり、その功績は後世に語り継がれています。

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