カロヤン・アセン

カロヤン：第二次ブルガリア帝国の皇帝

カロヤン（1168年/1169年 - 1207年）は、第二次ブルガリア帝国の皇帝であり、その治世は帝国の権力と地位を向上させたことで知られています。彼は、ラテン帝国との戦いで成功を収めた一方で、宗教的な駆け引きや周辺諸国との複雑な関係にも関わりました。

名前の由来

カロヤンの名前「カロヤン（Kaloyan）」は、「善良なヨハネ」または「寛大なヨハネ」を意味します。この名前はギリシャ語の「Kaloiōannēs」に由来し、東ローマ帝国の皇帝ヨハネス2世もこの名前を使っていました。また、彼は「ヨアニッツァ（Ioannitsa）」という愛称でも呼ばれ、現代のルーマニアの歴史家は「Ioniţă Caloian」と表記しています。

生涯

即位以前

カロヤンは、1168年から1169年の間に、タルノヴォ近郊の地方領主の末子として生まれました。1187年にブルガリアの独立が承認された際、人質としてコンスタンティノープルに送られましたが、1189年頃に脱走して帰国しました。その後、兄であるペタル4世とアセン1世が暗殺された後、カロヤンは敵対者を打ち破り、皇帝に即位しました。

バルカン半島での勝利と教会合同

カロヤンは、兄たちが採った反東ローマ政策を引き継ぎ、東ローマ帝国からの離反勢力と同盟を結びました。彼は、ストルミツァで独立したドブロミル・フリスとも連携し、トラキア地方のコンスタンティアを占領しました。1201年にはヴァルナを制圧し、1202年にはマケドニアの大部分をブルガリアの影響下に置きました。

ハンガリーとの間では領土を巡る争いがありましたが、教皇インノケンティウス3世の仲裁によって一時的に停戦しました。1199年頃から、インノケンティウス3世はカロヤンにローマ教会との合同を提案しており、カロヤンも皇帝の称号と第一次ブルガリア帝国時代の栄光の回復を求めて、ローマとの交渉を進めました。

1204年、ローマ教会との交渉の結果、カロヤンは「ブルガリアとワラキアの王」として戴冠されました。彼は皇帝の称号が認められたとみなし、「ブルガリア人とワラキア人の皇帝」を自称しました。一方で、東ローマ皇帝アレクシオス3世も、ブルガリアとの関係を改善するために、カロヤンの皇帝の称号と支配権を承認しました。

十字軍国家との戦い

1204年にラテン帝国が建国されると、カロヤンは反東ローマ同盟を呼びかけましたが、拒否されました。ラテン帝国は、旧東ローマ領を征服する意図を露わにし、カロヤンは東ローマ貴族の支援を得て、ラテン帝国に対抗しました。1205年、ブルガリア軍はラテン帝国軍に大勝し、ラテン皇帝ボードゥアン1世を捕虜にしました。

しかし、東ローマ貴族はカロヤンに反逆し、カロヤンは彼らを徹底的に弾圧しました。このことから、カロヤンは「ローマ人殺し」と呼ばれるようになりました。1206年にはラテン帝国軍を再び破り、トラキアの都市を破壊しましたが、その軍事行動は住民の強制移住を伴いました。

最期

カロヤンは、アドリアノープルの包囲を試みましたが、攻略を阻まれました。1207年にはニカイア帝国と反ラテン同盟を結成しましたが、同年、テッサロニキを包囲中に、自軍のクマン人司令官マナスタルの裏切りによって暗殺されました。

死後

カロヤンの遺体はタルノヴォに送られ、聖40人殉教者教会に埋葬されました。1972年に発見された遺骨からは、彼が生前に頭部に受けた傷跡が見つかりました。また、ブルガリアの2レフ硬貨にはカロヤンの印章がデザインされました。

評価

カロヤンの事績を記録した史料は、敵対していた国家の記録が多く、彼の残虐性が強調されています。しかし、彼の行動の一部は、指揮下のクマン人騎兵によるものであり、カロヤン自身は、敵対者には厳しかったものの、民衆には慈愛をもって接したとされています。

家族

妃のアンナはクマン人の指導者層の出身であり、カロヤンの死後、帝位簒奪者のボリルと再婚しました。娘のマーリアは、ラテン皇帝アンリに嫁ぎましたが、後にアンリ毒殺の容疑をかけられました。


カロヤンは、第二次ブルガリア帝国の発展に大きく貢献した皇帝であり、その生涯は、バルカン半島の歴史における重要な転換期を映し出しています。

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