アン・オブ・クレーヴズ

アン・オブ・クレーヴズ：ヘンリー8世の4番目の王妃

アン・オブ・クレーヴズ (1515年9月22日 - 1557年7月16日) は、イングランド王ヘンリー8世の4番目の王妃として知られています。ドイツ、ユーリヒ＝クレーフェ＝ベルク公ヨハン3世の娘である彼女は、Anna von Kleve というドイツ名をもちました。

王妃への道

アンがヘンリー8世の王妃候補に選ばれた背景には、ヘンリー8世の側近、トマス・クロムウェルの思惑がありました。クロムウェルは、ヘンリー8世にプロテスタントの王妃を迎えることを強く勧めていました。1539年春、ヘンリー8世はアンの肖像画を所望し、宮廷画家ハンス・ホルバインがアンとその妹アマーリエの肖像画を描きました。肖像画を気に入ったヘンリー8世は、アンとの結婚を決意します。

同年9月24日、ウィンザー城で婚姻条約が締結されました。アンはデュッセルドルフから出発し、カレーを経てイングランドへと渡ります。12月27日、ケントのディールに上陸。その後、ロチェスターに到着し、ついにヘンリー8世と対面を果たしました。

短命に終わった結婚生活

1540年1月1日、ヘンリー8世とアンは初めて会いました。しかし、ヘンリー8世はアンとの初対面後、クロムウェルに婚約解消の可能性を探るように依頼しています。正当な理由が見つからなかったため、結婚に踏み切ったものの、結婚生活は長く続きませんでした。1月6日、2人は結婚式を挙げますが、結婚生活はわずか数ヶ月で終わります。

ヘンリー8世はアンとの結婚を解消するために、アンが以前にロレーヌ公フランソワ1世と交わした婚約をきちんと解消していなかったことを理由としました。6月25日、アンは離縁を宣告されます。当初は驚きを隠せませんでしたが、やがて離縁を受け入れました。

離縁後の人生

離縁後も、アンは「王の妹」という称号と、アン・ブーリンの邸宅の一つヒーヴァー城を含む所領、年金を与えられました。ロンドン市内のベイナーズ城で余生を送り、イングランドを出ることは許されませんでした。

その後、ヘンリー8世の次の王妃キャサリン・ハワードが失脚した後、アンを再び王妃にしようという動きもありましたが、実現しませんでした。アンはヘンリー8世とキャサリン・パーの結婚式や、メアリー1世の戴冠式に出席するなど、王室に深く関わっていました。

ヘンリー8世は学識に富み、音楽やダンスを愛していましたが、アンはラインラントのドイツ語しか読み書きできず、音楽やダンスの教育も受けていませんでした。しかし、イングランドでの生活に適応し、言語の問題などもそれほど苦労しなかったようです。

アンはヘンリー8世の6人の王妃の中で最も長く生き、エリザベス1世の即位前、1557年7月16日に亡くなりました。8月3日、ウェストミンスター寺院に埋葬されました。

様々な視点からのアン

アンの人生については、様々な歴史家や作家が異なる解釈をしています。

幸せな生涯？: 渡辺みどりは著書『英国王室物語』の中で、アンはヘンリー8世の6人の王妃の中で最も幸せな生涯を送った人物だと述べています。離縁後も王族として扱われ、経済的に困窮することなく、政略結婚を繰り返すことなく、自由に余生を過ごせたという理由からです。
美貌と離婚の理由: ダイクストラ好子は『王妃の闘い』で、アンは美人だったが、ヘンリー8世はアンと会うたびに自分の老いを感じ、それが離婚の理由だったと主張しています。
王妃への再挑戦？: デイヴィッド・スターキーの"Six Wives"では、クレーフェ公との書簡を元に、キャサリン・ハワードの処刑後、アンが再び王妃の座を望んでいた可能性を示唆しています。
初夜の出来事: 石井美樹子は『エリザベス 華麗なる孤独』の後書きで、ヘンリー8世の侍医の記録として、「初夜にアンの体臭が強く、ヘンリー8世は眠れなかった」という逸話を紹介しています。

これらの様々な解釈は、アン・オブ・クレーヴズという人物像をより多角的に理解する上で重要な要素となっています。彼女の人生は、歴史上の人物としてだけでなく、多くの創作作品にも影響を与え続けています。小説や漫画など、アンを題材とした作品も数多く存在します。

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