アン・バートン

アン・バートン：哀愁を帯びた歌声で魅了したオランダのジャズ・ヴォーカリスト

アン・バートン（Ann Burton, 1933年3月4日 - 1989年11月29日）は、オランダ出身のジャズ歌手です。本名をヨハンナ・ラファロヴィチ（Johanna Rafalowicz）といい、その波瀾万丈な人生と、情感豊かな歌声で多くの人々を魅了しました。

激動の時代を生き抜いて

ヨハンナは、1930年頃にポーランドからオランダに移住した母親のもとに生まれました。第二次世界大戦中、家族はナチス・ドイツによるユダヤ人迫害に遭い、彼女自身も隠れて生活を送ることを余儀なくされました。戦後、両親は親権を失い、複雑な家庭環境の中で成長することになります。1957年にはオランダ国籍を取得し、新たな人生を歩み始めました。

音楽との出会い、そして才能の開花

幼い頃から歌のレッスンを受けたことはありませんでしたが、ドリス・デイ、ジョー・スタッフォード、ローズマリー・クルーニー、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーンといったアメリカの歌手たちの歌を聴いて育ちました。特にビリー・ホリデイやシャーリー・ホーンからは大きな影響を受け、歌手を志すようになります。1955年頃には、俳優リチャード・バートンにちなんで「アン・バートン」という芸名を名乗り、音楽の世界へと足を踏み入れました。

ヨーロッパから日本へ、そして世界へ

アン・バートンは、ルクセンブルクのクラブで歌手としてのキャリアをスタートさせました。その後、ドイツに駐留するアメリカ兵向けのクラブなどに出演し、腕を磨きました。1960年代には、ピア・ベックやピエ・ノールディクといったミュージシャンと共演し、ヨーロッパ各地でツアーを行いました。1967年には、ファースト・アルバム『ブルー・バートン』をリリースし、その才能は広く認められるようになります。このアルバムは、1969年にエジソン賞を受賞しました。

1973年には初来日を果たし、その後も何度か来日しています。佐藤允彦との共演盤『バイ・マイセルフ・アローン』など、日本でもアルバムを制作し、人気を博しました。1970年代後半にはニューヨークに拠点を移し、ヘレン・メリルのプロデュースのもと、グレイディ・テイトやバスター・ウィリアムスといった一流ミュージシャンと共演し、アルバムを制作しました。

晩年と死

1980年代には自身のレーベル「バートーン」を立ち上げ、アルバムをリリースするなど、精力的に活動を続けました。1986年から1988年にかけては、アムステルダム音楽院で教鞭をとるなど、後進の育成にも力を注ぎました。しかし、1989年11月29日、喉頭癌のため56歳という若さでこの世を去りました。

遺された音楽

アン・バートンの歌声は、哀愁を帯びた独特の魅力を持っており、聴く人の心を深く揺さぶります。彼女が遺した数々のアルバムは、今もなお多くの人々に愛され、聴き継がれています。

彼女の音楽は、ジャズ・ヴォーカルの歴史において、確かな足跡を残しました。

主要ディスコグラフィー

『ブルー・バートン』 - Blue Burton (1967年)
『バラード&バートン』 - Ballads & Burton (1969年)
『ミスティ』 - Misty Burton (1973年)
『バイ・マイセルフ・アローン』 - By Myself Alone (1974年)
* 『ニューヨークの想い』 - New York State Of Mind (1980年)

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