アーケン石

アーケン石 (Arkenstone) - 山の精髄

J・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』に登場するアーケン石は、物語の中心となる宝玉であり、ドワーフ族の王、トーリン・オーケンシールドが何よりも探し求めた存在です。その白く輝く美しさは、単なる宝石以上の意味を持ち、物語の展開に深く関わっています。

『ホビットの冒険』におけるアーケン石

アーケン石は、ドワーフ王スライン1世によってエレボール（はなれ山）の奥深くで発見されました。それは「山の精髄」と呼ばれ、ドゥリン一族の家宝として代々受け継がれてきました。しかし、ドラゴン、スマウグがエレボールを襲撃した際、アーケン石も他の財宝と共にスマウグの手に落ちてしまいます。

トーリン・オーケンシールドは、ホビットのビルボ・バギンズと共に、スマウグから先祖の宝を取り戻すための冒険に出ます。中でもトーリンが最も熱望していたのが、このアーケン石でした。

ビルボはスマウグの財宝の中でアーケン石を発見します。その輝きはビルボのたいまつに照らされ、虹のように色を変え、あらゆる光を集めて燦然と輝きました。ビルボはその魔力に魅せられ、石を自分のポケットに隠し、トーリンに秘密にしていました。

スマウグはエスガロスを襲撃しますが、バルドによって討たれます。バルドは、湖の町を代表してドワーフに宝の分配を求めますが、ドワーフは拒否。ビルボはドワーフと人間との交渉のため、アーケン石をバルドに託します。トーリンはアーケン石を「黄金の川にも換えられない」「わが命」とまで言っていました。

バルド、エルフ王スランドゥイル、ガンダルフはアーケン石を交渉の切り札として提示しますが、トーリンは拒否。親族の鉄足ダインが援軍に駆けつけ、戦いが始まろうとしたその時、ゴブリンとワーグの軍勢が現れ、ドワーフ、エルフ、人間は一致団結して戦います。五軍の合戦でトーリンは致命傷を負い、亡くなります。彼の亡骸はエレボールの奥深くに埋葬され、胸にはバルドによってアーケン石が置かれました。

アーケン石 (Arkenstone) の語源

アーケン石の語源は、古英語の「eorclanstān」（宝石）に由来します。この言葉は、『ベーオウルフ』やキュネウルフの詩にも登場し、聖なる石としての意味合いも持っていました。また、古ノルド語の「iarknasteina」も同語源であり、ゲルマン神話との関連性も指摘されています。

アーケン石に関する考察

初期の原稿では、アーケン石は「ギリオンの宝石」と呼ばれていました。ダグラス・アンダーソンとジョン・ラトリフは、『ホビットの冒険』のアーケン石と『シルマリルの物語』のシルマリルとの類似性を指摘しています。トールキン自身も、シルマリルを指してアーケン石の語源であるeorclanstānasを用いています。

ゴート語の「aírkna-stáins」（聖なる石）という概念は、シルマリルにも通じるものです。フェアノールのシルマリルに対する激しい所有欲と、トーリンのアーケン石に対する執着は共通しており、両者の悲劇の根源となっています。

『ホビットの冒険』において、ビルボがアーケン石を偶然発見し、隠した行為は、指輪物語における指輪発見の状況と似ています。アーケン石に与えられた魔力は、『指輪物語』における指輪の力へと引き継がれたと解釈することもできます。

アーケン石は、『ホビットの冒険』において、単なる美しい宝石以上の意味を持つ、重要な存在なのです。

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