アーサー・サマヴェル

サー・アーサー・サマヴェル

サー・アーサー・サマヴェル（Sir Arthur Somervell, 1863年6月5日 - 1937年5月2日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活動したイギリスの作曲家であり、音楽教育者でした。当時のイギリス音楽界が大きく発展を遂げた「イギリス音楽ルネッサンス」において、ヒューバート・パリーら先駆者の次の世代を担う重要な人物として認識されています。特に歌曲の分野で顕著な業績を残し、その後のイギリス歌曲の発展に大きな影響を与えました。

生涯と教育

サマヴェルは、現在のカンブリア州、ウィンダミアで、有名な製靴会社「Kシューズ」の創業者一族の息子として誕生しました。裕福な家庭に育ち、恵まれた環境で教育を受けます。初期の教育はアッピンガム・スクールで、その後ケンブリッジ大学キングスカレッジに進学しました。ケンブリッジでは、作曲家のチャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードに音楽を学びました。さらに専門的な研鑽を積むため、1883年から1885年にかけてはドイツのベルリン高等音楽学校で学び、その後、1885年から1887年にはロンドンの王立音楽大学で、イギリス音楽復興の中心人物であったヒューバート・パリーに師事しました。また、作曲はフリードリヒ・キールからも指導を受けています。これらの多様な教育機関や師事した指導者たちは、サマヴェルの幅広い音楽的素養の形成に寄与しました。

経歴と活動

学業を終えた後、サマヴェルは作曲家および教育者として精力的に活動を開始します。1894年には母校である王立音楽大学の教授に就任し、若い音楽家たちの育成にあたりました。作曲家としては、1890年代から1900年代にかけて、イギリス各地の主要な音楽祭で自作の指揮を行い、その評価を高めました。特に1895年から1897年にかけては、リーズやバーミンガムといった重要な音楽祭で活躍しています。彼の活動は教育分野にも及び、1901年には教育委員会およびスコットランドの教育部門において音楽研究員として任用されました。これにより、国の音楽教育制度の発展に深く関わることになります。教育分野での功績は高く評価され、1920年には教育委員会の主席音楽研究員という要職に就任しました。長年にわたる音楽への貢献、特に教育分野における功績が認められ、1929年にはナイトの称号を授与されました。

作品と作風

サマヴェルは多岐にわたるジャンルで作品を残しましたが、特に歌曲と合唱曲で成功を収めました。生前は、「見捨てられた人魚男（The Forsaken Merman）」（1895年）、「不滅の暗示（Intimations of Immortality）」（1895年）、そして「キリストの受難（The Passion of Christ）」といった大規模な合唱作品で高く評価されていました。「不滅の暗示」は、彼自身が1907年のリーズ音楽祭で指揮したことでも知られます。しかし、現在では、アルフレッド・テニスンの詩による連作歌曲「モード（Maud）」（1898年）や、A.E.ハウスマンの詩集に基づく連作歌曲「シュロップシャーの若人（A Shropshire Lad）」（1904年）といった作品によって最もよく知られています。これらの連作歌曲は、イギリス歌曲のレパートリーにおいて重要な位置を占めています。また、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの作品を編曲した歌曲「静かなる祈り（Silent Worship）」は、1996年の映画『エマ』に使用されたことで、広く知られるきっかけとなりました。サマヴェルの音楽スタイルは概して保守的で、フレデリック・メンデルスゾーンやヨハネス・ブラームスといったドイツ・ロマン派の影響が顕著です。旋律的で明快な構成を持つ作品が多く、親しみやすい魅力を持っています。その他の主要作品としては、1912年作曲の「海の交響曲」ニ短調があります。この交響曲は、第2楽章が同年南極で遭難したスコット隊を追悼する「哀歌」として書かれており、作曲から100年後の2011年に世界初録音が実現したことで、近年再評価の動きが見られます。1930年に作曲されたヴァイオリン協奏曲は、ヴァイオリニストのアディラ・ファキーリに献呈されています。

音楽教育への貢献

サマヴェルの業績は作曲だけにとどまりません。彼は音楽教育の分野においても多大な貢献をしました。教育委員会およびスコットランド教育部門の音楽研究員として、彼はイギリス全土、特にスコットランドにおける音楽教育の標準化と質の向上に尽力しました。教科書や練習曲集などの教育資材を多数執筆しており、「Rhythmic Gradus for pianoforte」や「Exercises in sight-reading」といった著作は、当時の音楽教育の現場で広く用いられました。彼の活動は、次世代の音楽家を育成し、一般の人々への音楽普及に大きく貢献しました。

結び

サー・アーサー・サマヴェルは、イギリス音楽ルネッサンス期を代表する多才な人物でした。作曲家として、特に歌曲と合唱曲の分野で重要な作品を生み出し、教育者として、国の音楽教育制度の発展に貢献しました。彼の保守的でありながらも抒情性豊かな音楽は、当時のイギリス音楽の風景を彩り、その教育者としての献身は、後世の音楽教育に大きな影響を与えました。現在も彼の連作歌曲などが演奏されており、イギリス音楽史において確固たる地位を占めています。

もう一度検索