アーサー・シモンズ

アーサー・ウィリアム・シモンズ (1865-1945) は、詩人、文芸批評家、そして雑誌編集者として、19世紀末から20世紀初頭にかけて英国で活躍した重要な人物です。ウェールズに生まれ、巡回牧師の父を持つ彼は、幼少期からイギリス各地を転々としました。17歳にしてすでにロバート・ブラウニングの作品批評を発表し、ブラウニング協会会員となるなど、早くから才能を発揮しています。

1884年には、まだ19歳の若さでシェイクスピア作品集の序文執筆を依頼されるなど、その才能は高く評価されました。その後、精力的に批評や翻訳を続け、ウォルター・ペイターやハヴロック・エリスといった当時第一線で活躍する文人たちと交流し、ロンドンの文壇に名を連ねるようになりました。

シモンズのキャリアは、1880年代半ばから1890年代後半にかけて最も輝きを放ちました。『Academy』、『Dome』、『Yellow Book』といった当時の代表的な文芸雑誌に、文学、演劇、美術、音楽と、多岐にわたる芸術分野に関する批評やエッセイを発表。同時に複数の詩集も出版し、詩人としての地位も確立しました。代表的な詩集には『Days and Nights』(1889)、『Silhouettes』(1892)、『London Nights』(1897)などがあります。

1896年には、出版人レナード・スミザーズの誘いを受け、美術編集者のオーブリー・ビアズリーと共に、芸術と文学の融合を目指した定期刊行物『サヴォイ』を創刊しました。斬新な内容と国際色豊かな執筆陣は、当時としてはまさに「前衛的」と言えるものでしたが、大手書店チェーンの販売拒否という困難に遭い、全8巻で廃刊という結果に終わりました。

シモンズの文芸批評における代表作は、1899年に発表された『The Symbolist Movement in Literature（象徴主義の文学運動）』です。この作品は、フランスとベルギーで台頭し始めていた象徴主義という新しい文学運動を、いち早く英語圏に紹介したものでした。その影響は大きく、トマス・エリオット、エズラ・パウンド、ジェイムズ・ジョイスといった20世紀のモダニズム作家にも多大な影響を与えました。日本においても、大正期の象徴派詩人たちに大きな影響を与え、複数の翻訳が出版されています。

シモンズは、ジプシーのような自由な生活に憧れ、外国語に堪能で旅を愛した人物でした。数多くの旅行記を発表しており、『Cities』(1903)、『Cities in Italy』(1907)、『Cities and Sea-Coasts and Islands』(1918)などは、印象派詩人と評されるシモンズらしい、鮮やかな色彩感覚と心象風景を描写した作品です。これらの作品からは、批評家としての鋭い視点も垣間見ることができます。

唯一の小説作品集である『Spiritual Adventures（心の冒険）』(1905)も発表しています。

1908年、イタリア旅行中に精神的に不安定な状態となり、警察に保護されるという不幸な出来事に見舞われました。帰国後も療養生活を送りましたが、完全に回復することはなく、晩年の作品は以前の作品の再録やまとめが中心となりました。

シモンズの作品は、詩、批評、エッセイ、翻訳、小説、旅行記と多岐に渡り、その幅広い才能と、象徴主義への理解、そして鋭い観察眼と美しい描写によって、現代においても高く評価され続けているのです。彼の残した膨大な著作は、20世紀文学、ひいては現代文学に大きな足跡を残しました。

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