アーサー・テューダー

アーサー・テューダー：イングランド王室の悲劇の王子

アーサー・テューダー（1486年9月19/20日 - 1502年4月2日）は、イングランド王ヘンリー7世とエリザベス妃の間に生まれた長男であり、ヘンリー8世の兄にあたります。彼はプリンス・オブ・ウェールズに任じられましたが、王位を継承することなく15歳という若さで亡くなりました。彼の短い生涯は、イングランドの歴史において重要な転換点となる出来事の遠因となりました。

生い立ち

アーサーの父であるヘンリー・テューダーは、ウェールズの君主家の末裔であり、自身のルーツを強く意識していました。ランカスター家の血を引く唯一の男子として、亡命生活を経てイングランドに上陸し、ボズワースの戦いで勝利を収め、テューダー朝を開きました。ヘンリーはエドワード4世の娘エリザベスと結婚し、薔薇戦争に終止符を打ちました。翌年、アーサーが誕生すると、王太子として将来を嘱望されました。

15世紀後半には、トマス・マロリーが『アーサー王の死』を出版し、アーサー王伝説が広く知られるようになりました。ヘンリー7世は、ウェールズの人々の期待を背景に、嫡男に「アーサー」という名前をつけました。

カタリーナ王女との結婚、そして早世

1489年3月、アーサーはアラゴン王フェルナンド2世とカスティーリャ女王イサベル1世の娘であるカタリーナ・デ・アラゴン（キャサリン・オブ・アラゴン）と婚約しました。当時、アーサーは2歳、キャサリンは0歳でした。この婚約は、イングランド側がスペイン側に巨額の持参金を要求したことや、国際情勢の変化により、何度も破談の危機に瀕しました。1501年10月、キャサリンはついにイングランドに到着し、11月にロンドンで結婚式を挙げました。この結婚式では、アーサー王伝説や聖カタリナにちなんだ演出がなされ、夫妻の王位継承の正当性を印象付けようとする意図が見られました。

結婚後、アーサーはキャサリンを連れてウェールズのラドロー城に移りました。しかし、アーサーは生まれつき病弱であり、1502年に重い風邪を患い、高熱のため15歳で亡くなりました。結婚が「完成」したかどうか、つまり肉体関係があったかどうかは、当時はあまり重視されませんでした。

没後の論争

アーサーの死後、未亡人となったキャサリンは、アーサーの弟であるヘンリー（後のヘンリー8世）と再婚し、王妃となりました。しかし、キャサリンは男児に恵まれず、ヘンリー8世は後継者問題を理由に離婚を望むようになります。この際、キャサリンとアーサーの最初の結婚が「成立」していたかどうかが争点となりました。ヘンリー8世は、キャサリンとの結婚が無効であると主張し、再婚を正当化しようとしました。

1528年、ローマ教皇はイングランドでの教会裁判を許可しましたが、キャサリンは、アーサーとの結婚は名ばかりのものであったと主張しました。しかし、ヘンリー8世側は、アーサーとの結婚は成立していたと主張し、1533年5月23日にキャサリンとの婚姻を無効とし、王妃の地位を剥奪しました。この一連の出来事は、イングランド国教会の設立へとつながる大きな要因となりました。

アーサーの早すぎる死は、キャサリンの再婚・離婚問題だけでなく、イングランドの歴史を大きく変えるきっかけとなりました。彼の短い生涯は、イングランド王室の歴史において、悲劇的な出来事として深く記憶されています。

参考文献

石井美樹子『薔薇の冠 イギリス王妃キャサリンの生涯』朝日新聞社、1993年10月。ISBN 978-4022566652。
桜井俊彰『物語 ウェールズ抗戦史 ケルトの民とアーサー王伝説』集英社〈集英社新書〉、2017年10月。ISBN 978-4087210040。
大野真弓 『新版英国史』 山川出版社 1984年 ISBN 4634410109
小西章子 『スペイン女王イサベル』 鎌倉書房 1980年
森護 『英国王妃物語』 三省堂 1992年 ISBN 4385433259
Alison Weir, Britain's Royal Families, Vintage, 2008.

関連項目

薔薇戦争
アーサー王伝説
* イングランド国教会

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