アーサー・バーガー

アーサー・バーガー（Arthur Berger, 1912年5月15日 - 2003年10月7日）は、20世紀後半のアメリカを代表する作曲家の一人であり、卓越した音楽評論家、そして教育者としても活躍しました。

生涯

ニューヨーク市で生を受けたバーガーは、幼少期から音楽への深い関心を示しました。ニューヨーク大学で基礎を学んだ後、音楽研究を深めるべくハーバード大学大学院に進学し、著名な作曲家ウォルター・ピストンに師事しました。さらに、彼はパリへ渡り、伝説的な音楽教育者であるナディア・ブーランジェの薫陶を受けました。ブーランジェとの出会いは、彼のその後の音楽観に大きな影響を与えたと考えられています。パリ滞在中にはソルボンヌ大学でも学び、ヨーロッパの知的・芸術的環境に触れる機会を得ました。

初期のキャリアにおいて、バーガーはミルズ大学やニューヨーク市立大学ブルックリン校で短期間教壇に立ちましたが、その後は音楽評論家としての活動が中心となります。彼はまずニューヨーク・サン紙で筆を執り、後に有力紙であるニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙に移籍し、長年にわたり鋭い批評を展開しました。新聞社での活動を通じて、彼は当時の音楽界における重要な論客の一人として認知されるようになります。

1953年、バーガーは新聞社での職を辞し、アカデミックな世界へと本格的に復帰します。マサチューセッツ州ウォルサムにあるブランダイス大学の教授に就任し、作曲と音楽理論の指導にあたりました。ブランダイス大学は当時、アメリカの現代音楽研究の中心地の一つであり、彼はそこで多くの後進の育成に貢献しました。定年退職後も、ニューイングランド音楽院で非常勤講師として教え続け、生涯にわたり教育への情熱を持ち続けました。

音楽スタイルと作品

アーサー・バーガーの作曲スタイルは、20世紀の主要な音楽潮流を反映し、時代と共に変化を遂げました。初期には、イーゴリ・ストラヴィンスキーの新古典主義的な明快さや、アルノルト・シェーンベルクの表現主義的な探求心から影響を受けました。さらに後年には、アントン・ヴェーベルンの繊細で構成的な音楽からの影響も見て取れます。

1940年代の彼の作品は、主に新古典主義の枠組みの中で書かれました。この時期の代表作としては、1944年に作曲された『協奏的セレナーデ』や、1945年の『弦楽のための3つの小品』が挙げられます。これらの作品は、伝統的な形式感を保ちつつ、現代的な響きを融合させています。

しかし、1950年代に入ると、バーガーの作風は大きく変化します。彼は十二音技法を取り入れ、音列を用いたより組織的な作曲手法を追求するようになりました。この時期の探求は、彼の音楽語彙を拡張し、新たな表現の可能性を開きました。やがて厳密なセリエル音楽からは離れていきますが、複数の音を同時に鳴らすトーン・クラスターなどの現代的な技法は、その後も彼の作品において重要な要素として残り続けました。

彼のキャリアを通じて生み出された作品の中で、特に重要なものとしては、1958年の『弦楽四重奏曲』、1969年の『ピアノのための5つの小品』、そして1965年から1966年にかけて作曲された『七重奏曲』があります。これらの作品は、彼の作風の変遷と多様性をよく示しています。

アーヴィング・ファインやルーカス・フォスといった同世代の作曲家たちと共に、バーガーは「ボストン楽派」として分類されることがあります。これは、彼らがボストンとその周辺地域を拠点に活動し、アメリカ東海岸の音楽シーンにおいて一定の影響力を持っていたことを示唆しています。

バーガーは作曲、評論、教育という三つの側面から、20世紀後半のアメリカ音楽界に多大な貢献をしました。彼の探求的な音楽スタイルと、鋭敏な音楽批評は、後世の音楽家たちに影響を与え続けています。

もう一度検索