アーサー・ベンジャミン

アーサー・レスリー・ベンジャミン（Arthur Leslie Benjamin, 1893年9月18日 - 1960年4月10日）は、オーストラリアのシドニーに生まれ、主にイギリスで作曲家として活躍した人物です。彼の音楽は、その軽妙でリズミカルな魅力から広く親しまれています。

若い頃から音楽の才能を示したベンジャミンは、ブリスベンのグラマー・スクールから奨学金を得て、1911年にイギリスへ渡りました。ロンドン王立音楽大学に入学し、当時著名な作曲家であり教育者であったチャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードに師事します。彼はスタンフォードの晩年における重要な弟子の一人となりました。第一次世界大戦が始まると、彼は学業を中断して従軍。当初は歩兵として、その後は空軍に所属し、戦場を経験しました。

終戦後の1921年、イングランドへ戻ったベンジャミンは、母校であるロンドン王立音楽大学のピアノ科教授に就任しました。教育者としても優れており、彼の門下からは後に20世紀イギリス音楽を代表する作曲家となるベンジャミン・ブリテンが輩出されています。

作曲家としてのベンジャミンは、多才な一面を持っていました。彼の作品の中で特に有名なのは、1938年に作曲された「ジャマイカ・ルンバ (Jamaican Rumba)」です。この曲は元々彼が軽い気持ちで「手遊び」として書いたとされていますが、その陽気で耳に残るメロディーが世界的な大ヒットとなりました。この曲がジャマイカの名を広く知らしめた貢献への謝礼として、ジャマイカ政府から樽入りのラム酒が贈られたという興味深いエピソードも残されています。

「ジャマイカ・ルンバ」の爆発的な成功ゆえに、ベンジャミンはしばしば「ライト・ミュージック（通俗音楽）」の作曲家として広く認識されがちです。しかし、実際には彼はオペラやバレエ音楽、合唱曲、そして多岐にわたる器楽曲を含む、数多くの本格的なクラシック音楽作品を手がけた作曲家です。彼は師スタンフォードと同様にヨハネス・ブラームスを深く敬愛しており、それが師との関係を深める一因ともなりました。一方で、彼の音楽スタイルにはフランス近代音楽、特に新古典主義からの影響が強く見られます。そのため、彼の作品は時に劇的な表現よりも、リズミカルで明るく、聴く者に愉悦感を与える性質を持っています。色彩豊かで感覚的な響きが特徴と言えるでしょう。

主要な作品としては、交響曲や2曲のピアノ協奏曲（それぞれ協奏曲とコンチェルティーノ）があります。また、高名なヴァイオリニストであるヤッシャ・ハイフェッツのために書かれた「ロマンティックな組曲」は、実質的にヴァイオリン協奏曲として演奏されます。映画音楽の分野でも知られ、アルフレッド・ヒッチコック監督の有名な映画『知りすぎていた男』（1956年版）では、バーナード・ハーマンの音楽監督のもと、彼のカンタータ「時化 (Storm Clouds)」の一部が重要なシーンで使用されています。

さらに、彼は過去の作品にも目を向け、ドメニコ・チマローザのチェンバロ・ソナタの中から4曲を選び、巧みに編曲してオーボエ協奏曲に仕立て上げました。この編曲版は「チマローザのオーボエ協奏曲」として現在も広く知られ、演奏されています。

アーサー・レスリー・ベンジャミンは、教育者、そして多様な才能を持つ作曲家として、イギリス音楽界に確固たる足跡を残しました。1960年、癌によりロンドンでその生涯を閉じるまで、彼は精力的に創作活動を続けました。

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