アーチ式コンクリートダム

アーチ式コンクリートダム

アーチ式コンクリートダム（Concrete Arch Dam、CAD）は、コンクリートを主材料とし、アーチ状の壁で水圧を受け止め、両岸の岩盤で支えるダムです。上空から見ると、堤体が弧を描いているのが特徴です。アーチダムと略されることもあります。

特徴

アーチダムには様々な種類がありますが、最も一般的なのは下流側に湾曲したドーム型アーチ式コンクリートダムです。設計は複雑ですが、使用するコンクリートの量が最も少なく、経済的なため、主流となっています。その他、放物線アーチダムや円筒型アーチダムなどもあります。

派生型として、複数のアーチを連ねたマルチプルアーチダムや、重力式コンクリートダムの特性を併せ持つ重力式アーチダムがあります。

アーチダムは、コンクリートの使用量が少なく、建設コストを抑えられます。しかし、重力ダムのようにダム自体の重さで水圧に抵抗することが難しいため、アーチの形状で水圧を両岸の岩盤に分散させる構造となっています。そのため、建設には強固な岩盤が不可欠で、建設場所は限られます。

フランスのマルパッセダム決壊事故は、基礎岩盤の強度が不足していたために発生しました。この事故はアーチダムの施工に大きな影響を与え、日本では黒部ダムで両側にウイングを設けて補強する対策が取られました。

洪水吐き（こうずいばき）は、常用洪水吐き（非洪水時・小規模洪水時の放流設備）がダム堤体中央部に設置されていることが多いです。スキージャンプ式や、ロックフィルダムのように山腹に洪水吐きを設ける場合もあります。非常用洪水吐きは、自然越流式やゲート式が採用されます。また、堤体下流側の表面には、巡視路（キャットウォーク）が設けられています。

世界のアーチダム

アーチダムは古くからヨーロッパなどで建設されており、スペインのアリカンテダムは300年間、堤高世界一の記録を保持していました。

現在、最も高いアーチダムは中国の錦屏第一ダムですが、イランで建設中のバフティヤーリーダムが完成すると、世界一の高さとなります。総貯水容量が最大のカリバダム（ジンバブエ・ザンビア）は、琵琶湖の約68倍の容量を誇ります。

日本のアーチダム

日本では、島根県の三成ダムが河川法上の規定による最初のアーチ式コンクリートダムですが、それ以前にも浦山堰堤（現在は浦山ダムに水没）などの建設例がありました。現存する最古のアーチダムは、青森県の旧海軍大湊要港部水源地堰堤です。

大規模なアーチダムは、戦前は土木技術の未発達や地震・洪水への安全性への懸念から建設されませんでした。日本で最初の高さ100mを超える大規模アーチダムは、宮崎県の上椎葉ダムです。オーバーハングした三次元的形状が取り入れられた最初のアーチダムは、和歌山県の殿山ダムです。1963年に完成した黒部ダムは、日本最大のダムとして知られています。

美しい外観から、黒部ダムや温井ダム、豊平峡ダムなど、観光地化しているダムも多く存在します。

アーチダムは強固な岩盤を持つ峡谷に建設されるため、犀川や鬼怒川のように同一河川に集中して建設されている例もあります。近年は建設に適した場所が少なくなり、2001年の奥三面ダム以降、新たな完成例はありません。川辺川ダムが計画されていますが、中止となる可能性が高く、今後の建設は非常に少ないと考えられます。

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