アール・ウィーバー

アール・シドニー・ウィーバー：ボルチモアの伯爵、情熱と知略でチームを勝利へ導いた名将

アール・シドニー・ウィーバー（Earl Sidney Weaver）は、1930年8月14日にミズーリ州セントルイスで生まれ、2013年1月19日に生涯を終えた、メジャーリーグ屈指の名監督です。その卓越した手腕から「ボルチモア伯爵（Earl of Baltimore）」の愛称で親しまれました。

1968年から1982年、そして1985年から1986年までの計17シーズンにわたり、ボルチモア・オリオールズの監督として指揮を執り、6度の地区優勝、4度のリーグ優勝、そして1970年にはワールドシリーズ制覇という偉業を成し遂げました。その功績が認められ、1996年にはアメリカ野球殿堂入りを果たしています。

選手から監督へ：才能が開花した指導者人生

現役時代はメジャーリーグに昇格できませんでしたが、AAイースタンリーグのエルマイラ・パイオニアーズで監督としての才能を開花させました。1968年、37歳という若さでボルチモア・オリオールズの監督に就任すると、その手腕をいかんなく発揮し、チームを強豪へと育て上げました。

1969年、メジャーリーグが東西2地区制を導入した年、ウィーバー率いるオリオールズはア・リーグ東地区の初代チャンピオンに輝きました。リーグチャンピオンシップシリーズ（ALCS）ではミネソタ・ツインズを3連勝で下し、ワールドシリーズに進出。その後も3年連続で地区優勝、リーグ優勝を達成し、オリオールズの黄金時代を築き上げました。

ワールドシリーズ制覇と、その後の苦難

1969年のワールドシリーズでは、ニューヨーク・メッツに敗れましたが、翌1970年にはシンシナティ・レッズを破り、見事ワールドチャンピオンに輝きました。1971年にもリーグ優勝を果たしましたが、ワールドシリーズではピッツバーグ・パイレーツに敗れています。同年秋には、日米野球で単独チームとして来日し、日本のファンにその強さを見せつけました。

その後も1973年、1974年と地区優勝を果たすものの、ALCSでは当時ワールドシリーズ3連覇中だったオークランド・アスレチックスに阻まれました。1979年には、前年までワールドシリーズ連覇を続けていたニューヨーク・ヤンキースを破って地区優勝。ALCSでもカリフォルニア・エンゼルスを退けましたが、ワールドシリーズでは再びパイレーツに敗れ、雪辱を果たすことはできませんでした。

引退、復帰、そして殿堂入り

1982年シーズン限りで一度監督を退任。その功績を称えられ、ウィーバーの背番号「4」はオリオールズの永久欠番となりました。翌1983年からはオリオールズの専属解説者となり、後任のジョー・アルトベリ監督の下でチームがワールドシリーズ優勝を果たした瞬間を、放送ブースから見守りました。

1985年シーズン途中にアルトベリ監督の解任を受け、再び監督として復帰。しかし、1986年には17シーズン目にして初めて勝率5割を切って地区最下位に終わり、このシーズンを最後に監督を退任しました。引退後、1996年にベテランズ委員会の選考によってアメリカ野球殿堂入りを果たし、その功績が改めて称えられました。

2013年1月19日、カリブ海クルーズ中に心臓発作で急逝。82歳でした。奇しくも、同じく殿堂入りを果たしたスタン・ミュージアルと同日の死去となりました。

戦術と人物像：勝利へのこだわりと人間味

ウィーバーの戦術は、「ピッチング、守備、3ラン本塁打」を重視し、盗塁、ヒットエンドラン、送りバントをあまり用いなかったことで知られています。選手の記録統計を詳細に分析し、相手投手との相性を考慮して頻繁にメンバーや打順を入れ替えるなど、データに基づいた緻密な戦略を駆使しました。

1972年のスプリングトレーニングでは、スピードガンを本格的に導入し、投手の球速を計測。カル・リプケン・ジュニアを三塁手から遊撃手にコンバートしたのもウィーバーの功績です。一方で、殿堂入りのエース、ジム・パーマーとの確執は有名で、たびたび論争を繰り広げました。

オリオールズの主力選手で、名三塁手として知られたブルックス・ロビンソンは、ウィーバーを「見かけはおよそスマートじゃないが、心の中は実にスマート。我々の気持ちをよくわかってくれる」と評しています。また、伊東一雄はウィーバーの風貌を「ミッキー・ルーニーと金太郎サンを足して2で割ったようなもの」と表現しています。

判定に対する猛抗議でも知られ、通算退場回数は97回。これはアメリカンリーグ記録となっています。1969年のワールドシリーズ第4戦では、審判の投球判定に抗議して退場処分を受けました。しかし、ルールには精通しており、ルールを誤解した抗議は一度もなかったため、アメリカンリーグの審判たちはウィーバーの抗議を恐れていたと言われています。

審判のロン・ルチアーノとは特に衝突が多く、マイナーリーグ時代からメジャーリーグ昇格後も、数々の逸話を残しました。ルチアーノは引退後に出版した著書で、嫌いな監督・選手のワースト10の1位から9位までを全てアール・ウィーバーで埋め尽くし、10位に「アール・ウィーバーの手下のフランク・ロビンソン」を挙げています。1995年にルチアーノが自殺した際には、ウィーバーは哀悼の意を表しました。

アール・シドニー・ウィーバーは、その情熱的な姿勢と卓越した戦略で、ボルチモア・オリオールズを黄金時代へと導いた名将として、野球史にその名を刻んでいます。

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