イアン・ペイス

イアン・ペイス：ハードロックの歴史を刻むドラマー

イアン・ペイス（Ian Paice）は、1948年生まれ、イングランド出身のロックミュージシャンであり、ドラマーです。彼は、ハードロックバンド、ディープ・パープルの唯一のオリジナルメンバーとして知られ、1960年代から今日に至るまで、ロックシーンの第一線で活躍し続けています。身長170cm、サングラスがトレードマークの彼は、その卓越したドラミング技術で、多くのファンを魅了してきました。

特筆すべきは、彼が数少ない左利きのプロドラマーであるという点です。演奏中には口をパクパクと動かす癖がありますが、その理由は明確にはなっていません。ローリング・ストーン誌では「歴史上最も偉大な100人のドラマー」の9位に選ばれ、2016年にはディープ・パープルの一員としてロックの殿堂入りを果たしました。

キャリア

音楽一家に生まれたイアン・ペイスは、幼少期から音楽に親しんでいました。1950年代後半には父親の楽団で活動を始め、1963年に15歳でドラムセットをプレゼントされてから、本格的にドラムの道を歩み始めました。

17歳でプロデビューを果たし、いくつかのバンドを経て、1966年にザ・メイズに加入。ザ・メイズは1967年にイタリアで舞台音楽を担当し、その際、ペイスはリッチー・ブラックモアと出会います。その後、ブラックモアに誘われるも、ザ・メイズの仕事を優先したペイスでしたが、1968年、再びブラックモアと再会し、ラウンドアバウト（後のディープ・パープル）にドラマーとして加入しました。

1968年、ラウンドアバウトはディープ・パープルと改名し、アルバム『ハッシュ』でデビュー。その後、メンバーチェンジを経ながらも、1970年代にはブリティッシュ・ハードロックの代表格として世界的な人気を博しました。1976年の解散まで、ペイスは全てのアルバムに参加し、ジョン・ボーナムやカーマイン・アピスと並び、ハードロック界を代表するドラマーとしての地位を確立しました。

1976年のディープ・パープル解散後、ペイスはペイス・アシュトン・ロードを結成しますが、短期間で解散。1979年には、ディープ・パープルで共に活動したデイヴィッド・カヴァデールに請われ、ホワイトスネイクに加入し、複数のアルバムに参加しました。1982年にホワイトスネイクを脱退した後、ゲイリー・ムーア・バンドに加入し、アルバムリリースやツアーを行いましたが、1984年にディープ・パープル再結成のため脱退しました。再結成以降、ペイスは一貫してディープ・パープルのドラマーを務め、ブラックモアやジョン・ロードの脱退後も唯一のオリジナルメンバーとして現在も在籍しています。

また、1999年にはポール・マッカートニーのアルバム『ラン・デヴィル・ラン』にも参加するなど、幅広い活動を展開しています。

演奏スタイル

イアン・ペイスのドラミングは、非常に速いシングルストローク、正確なリズムワーク、そしてタムを多用したメロディアスなフィルインが特徴です。シンコペーションによる勢いの表現や、絶妙なシャッフルなど、彼の演奏スタイルはハードロックのみならず、後のロックドラミング全体に計り知れない影響を与えました。特に、ワンバスドラムでの高速ペダルワークは、彼のトレードマークの一つとなっています。

使用機材

初期のディープ・パープル時代には、ラディック社製のドラムセットを使用していましたが、ゲイリー・ムーア・バンド在籍中からパール社製のドラムセットを使用するようになり、現在に至るまで愛用しています。パールからは、彼自身のアーティストモデルであるスネアドラムも発売されています。

シンバルはパイステ、スティックはPRO-MARKのイアン・ペイスモデルを使用しており、かつてはスティックのチップ側を持ったり、チップがない「ロックノッカー」と呼ばれるタイプのスティックを使用していましたが、2015年以降はチップ付きのモデルを使用しています。グリップはマッチドグリップです。

左利きであるため、ほぼ全ての機材を右利きドラマーとは左右逆にセッティングしており、ワンバスドラムのセッティングにこだわりを持っています。ただし、楽曲「ファイアボール」のレコーディングでは、ダブルベースドラムを使用しています。また、2015年以降は、3つのタムタムを三角形に配置し、2つのフロアタムの上にもタムタムを追加した変則的なセットを使用しています。

ディープ・パープル在籍時のドラムセット

以下は、ディープ・パープル在籍時のペイスの主なドラムセットの変遷です。

1968年～1969年: ラディック製のシルバースパークル色のセット。
1969年～1970年: ラディック製のブラックオイスター色のセット。
1971年: 1968年～1969年に使用したセット。
1971年～1974年: ラディック製のシルバースパークル色のセット（バスドラムが大口径化）。
* 1975年: ラディック製のシルバースパークル色のセット（タムの数が大幅に増加）。

これらの変遷からも、彼のドラミングへの飽くなき探求心と、進化を続ける姿勢が伺えます。

まとめ

イアン・ペイスは、ハードロックの歴史を語る上で欠かせないドラマーであり、そのプレイスタイルは、多くのドラマーに影響を与え続けています。ディープ・パープルの創設メンバーとして、また、その後の様々なプロジェクトでの活躍を通して、彼は今もなおロックシーンの最前線を走り続けています。

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