イェルマーク

イェルマーク・チモフェーイェヴィチ：シベリア征服の先駆けとなったコサックの英雄

イェルマーク・チモフェーイェヴィチ（1532年または1542年 - 1585年）は、コサックの頭領であり、シベリア探検家として知られています。彼のシビル・ハン国侵攻は、ロシアによるシベリア征服の始まりとなり、その活躍はロシアの民話で英雄として語り継がれています。本稿では、彼の生涯と業績、そして伝説に包まれたその人物像に迫ります。

生涯とシビル・ハン国攻略

イェルマークの本名は不明で、ヴァシーリーという伝承もありますが、それを裏付ける史料はありません。「イェルマーク」という名前は、「イエメーリャ」や「ヘールマン」といった名前の愛称、またはタタール語の渾名であると考えられています。彼の出身地についても諸説あり、モスクワ大公国のカマ川流域、ドン川のカチャリンスカヤ集落、白海南岸など、様々な説がありますが、定説はありません。

当時、豊かな商人一族であったストロガノフ家は、イヴァン4世からカマ川沿いの地域を植民地化する許可を得ていました。彼らは領地を守るため、コサックを雇いヴォグール人の襲撃を防いでいました。そのような状況下で、モスクワ大公国と敵対するシビル・ハン国が攻撃を仕掛けてきたため、ストロガノフ家はイェルマークにシビル・ハン国攻略を依頼しました。

1579年または1581年9月、イェルマークは540人の軍勢を率いて東進を開始し、ウラル山脈を越え、シビル・ハン国の首都カシリク（イスケル）を攻撃しました。この戦いでイェルマークは勝利し、カシリクを占領。シビル・ハン国の支配者であったクチュム・ハーンは首都を放棄し、草原へ逃げました。

英雄の最期と伝説

1585年8月、イェルマークの部隊はシビル・ハン国の残党から急襲を受け、壊滅状態となります。イェルマーク自身も傷を負い、戦死しました。しかし、その後もロシアによるシビル・ハン国への攻撃は続き、1598年にシビル・ハン国は滅亡しました。

イェルマークをめぐる伝説は数多く、シベリアの少数民族の間でも語り継がれています。彼の出自や容貌については様々な説があり、年代記には美丈夫で弁舌に優れると記されていますが、これは英雄を描く際によくある描写であり、信用できないという意見もあります。

年代記によると、イェルマークらがイスケルを占領した日は聖ドミトリー・ソロンスキーの記憶日であり、神と生神女マリアに祈ってから入城したとされています。また、イェルマークらはイスケルを占領すると、シビル・ハン国をツァーリ・イヴァン4世に献上したとされています。イヴァン4世はこれを喜び、使者をねぎらい、褒美を下賜したと伝えられています。

イェルマークの最期は、クチュム・ハーンの謀略によっておびき出され、襲撃されたことになっています。彼は小舟で逃げようとしましたが、ツァーリから下賜された甲冑の重みで溺れ死んだと伝えられています。

民衆の英雄、イェルマーク

「イェルマーク遠征物語」は、16、7世紀のロシアの民衆の祈りと期待の物語であり、イェルマークらの勇敢さや苦労が誇張されて伝えられ、イェルマーク信仰とも呼べるものになりました。彼の遺体や着衣は奇跡をもたらすと信じられ、病気が治ったり、戦争や商売がうまくいったりしたという伝説が残っています。

イェルマークは、シベリア征服の先駆けとなった英雄として、ロシアの歴史と民話の中で永遠に語り継がれることでしょう。

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