イエ・ムラ理論

イエ・ムラ理論の概論

イエ・ムラ理論（いえむらりろん）は、家（イエ）を基本単位として、日本の伝統的な村落社会（ムラ）の構造や論理を探求する農村社会学の理論です。この理論は、郷土愛や地縁、家庭単位に基づく社会的な結びつきを重視し、特に日本の文化に根差した社会の在り方を理解するための重要な枠組みを提供します。

自然村論とイエ・ムラ理論の展開

イエ・ムラ理論の礎を築いたのは鈴木栄太郎の自然村論です。彼は1940年に発表した『日本農村社会学原理』の中で、自然村を地縁的な結びつきに根ざした集団として定義しました。自然村では、社会的交流や生活が自給自足的に行われており、ムラの存在もこの自然的な社会的統一を基にしています。このムラは、地理的には「大字」という範囲に存在し、現代の地方行政制度上での位置づけよりも、地域に根ざした独自の単位として存在しています。

有賀喜左衛門の家連合論

有賀喜左衛門は、ムラを家（イエ）の集団として捉え、柳田國男の大家族論を基にして解釈しました。彼は、家を労働の組織化から生まれる生活保障の単位と考え、その相互関係に注目しました。彼の研究では、同族的な家連合と地縁による村組的な家連合の存在が明らかにされ、ムラはこうした家連合を包含するものとされました。その後、福武直がこの論を発展させ、同族結合や講組結合についての考察を加えました。

喜多野清一による批判

喜多野清一は、ウェーバー社会学の観点からイエを家父長制に基づく扶養共同体の一形態と見なしました。彼は特に、戦後の民主化に伴う社会構造の変化を重視し、イエやムラを権威主義的な支配構造と捉え、それを克服することが日本の社会における近代化や民主化の鍵だと主張しました。

機能集団論の登場

1970年代以降の高度経済成長に伴い、イエ・ムラ研究の焦点は、従来の同族結合から共同経営や生産組織に移行しました。この機能集団論は、従来のイエやムラとの関係性を再考させるもので、個々のイエが社会的な機能集団を構成する重要な単位であることを示しました。

都市社会への影響

イエ・ムラ理論は、都市社会の研究にも影響を与えています。有賀喜左衛門はその理論を都市に応用する試みを行っており、ロナルド・ドーアの『都市の日本人』でもイエ・ムラの視点が取り入れられています。これにより、地域社会学の枠組みが広がり、都市と農村の二元的な分け方を乗り越える新たな視点が生まれました。

日本社会論への影響

さらに、イエ・ムラ理論は日本社会論にも貢献しています。中根千枝の著作『タテ社会の人間関係』では、「家原理論」の基盤としてイエ・ムラの理論が位置づけられ、社会の構造理解に重要な役割を果たしています。

基本文献

• - 鳥越皓之『家と村の社会学』（世界思想社、1993年）
• - 細谷昂『現代と日本農村社会学』（東北大学出版会、1998年）

これらの文献は、イエ・ムラ論への入門として、またその理論の現在の到達点を知る上で不可欠な資料です。

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