イギリス歴史学派

イギリス歴史学派の概要

イギリス歴史学派（English historical school of economics）は、19世紀初頭に現れ、主に帰納的アプローチを強調した経済学の流派です。この学派は、特にデイヴィッド・リカードの演繹的手法の成功を受けて、より経験的で実践的な手法を採用しようとしました。先人たちの経験主義や帰納法を重視する姿勢が、フランシス・ベーコンやアダム・スミスから引き継がれています。この流派には、ウィリアム・ヒューウェル、ウォルター・バジョット、アーノルド・トインビー、ジョン・ケルズ・イングラムといった著名な経済学者が名を連ねています。

帰納的アプローチの特性

イギリス歴史学派は、古典派経済学や新古典派経済学が採用する演繹的手法とは一線を画し、帰納的アプローチの追求を重視しました。この流派の学者たちは、経済分析を行う際に、単に「利益を最大化する個人」を基準としたり、「快楽と苦痛の計算」に依拠することを慎重に避けました。彼らは、利他主義を根底に置いた分析を重要視し、個人の動機だけではなく、社会全体の利益を考慮した経済学を模索しました。

反普遍主義の立場

イギリス歴史学派の特徴として、経済政策が特定の時期や場所に普遍的に適用可能であるという見解を否定する姿勢があります。リカード派やマーシャル派が自由貿易政策を疑いなく支持したのに対し、歴史学派はこれに批判を投げかけました。植民地主義や帝国主義の文脈の中で自由貿易が正当化されることに反発し、彼らは経済理論を歴史的かつ地域的背景に即して相対化することの重要性を訴えました。

市場経済への疑念

この学派は、レッセ・フェール（自由放任主義）に対して非常に批判的です。特にアーノルド・トインビーは社会活動家として、貧困や富の不均衡の問題を市場原理の結果として受け止め、公的な介入の必要性を提唱しました。しかし、イギリス国内の富の蓄積に関しては、その成果を誇りに思う側面もありました。市場原理自体を完全に否定するのではなく、その影響を良くする方法を模索したのです。このような視点を持つことで、社会の私的領域が公的領域を圧迫してゆくことへの懸念も表明しました。

影響とその後の展開

この学派は、ジョン・ステュアート・ミルやオーギュスト・コント、ハーバート・スペンサーといった哲学者や社会学者に強い影響を及ぼしました。また、ビクトリア朝後期には科学的進化論の概念が盛んになり、様々な分野での知識の発展が見られました。特に地質学、生物学、社会学、経済学の分野で、反映される新たな経済モデルが生まれていきました。19世紀初頭に誕生したイギリス歴史学派は、1870年代から1880年代にかけて強い影響力を持ち続け、1920年代までその影響を保持しました。特に『エコノミック・ジャーナル』や『エコノミック・レビュー』などの専門誌において、その論考が多くの読者に支持されました。

このように、イギリス歴史学派は経済学の発展において重要な役割を果たし、その影響は今日に至るまで続いています。

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