ウォルター・バジョット

ウォルター・バジョット（Walter Bagehot, 1826年 2月3日 - 1877年 3月24日）は、ヴィクトリア朝時代のイギリスを代表する多才な人物です。ジャーナリスト、評論家、経済学者、思想家として、政治、経済、社会、文芸、歴史、人物など、幅広い分野で卓越した見識を示しました。彼の著作は、現代においても重要な示唆を与え続けています。

生涯

1826年、サマセット州ラングポートで銀行家の子として生まれたバジョットは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで数学を専攻しました。25歳の時にパリでルイ・ナポレオンのクーデターを目の当たりにしたことが、彼の思想に大きな影響を与えました。この経験から、エドマンド・バークの保守主義的な政治思想に傾倒していきます。

評論家としては、多岐にわたる分野で才能を発揮しました。特に、主著である『イギリス憲政論』は、イギリスの不文憲法の解釈において重要な役割を果たし、バークの『フランス革命の省察』と並ぶイギリス政治学の古典とされています。この著作は、君主制を擁護する立場から、イギリスの政治体制を分析したものです。

また、バジョットは『エコノミスト』紙の編集長を35歳から亡くなる51歳まで務めました。この間、彼は金融界にも大きな影響力を持ち、「第二の財務大臣」と評されるほどでした。庶民院選挙に立候補した際には落選しましたが、彼の政治経済に関する評論は、ヴィクトリア朝の英国において重要な役割を果たしました。

1860年代には、家庭環境の悪化や偏頭痛、体調不良に悩まされることが多くなりました。1877年に故郷のラングポートで亡くなりました。死因は風邪であったとされています。

家族と私生活

1858年に『エコノミスト』紙の創設者であるジェイムズ・ウィルソンの娘、エリザベス・ウィルソンと結婚しました。当初は非常に仲睦まじかったものの、子供は恵まれませんでした。1860年代になると、バジョットの母親の病状が悪化し、介護や仕事の問題から夫婦間に溝が生じ始めました。常に締め切りに追われていたバジョットは、母親の死後、ますます家庭を顧みなくなったと伝えられています。しかし、1933年には、夫妻のラブレターがまとめられて出版され、その愛情の深さが垣間見えます。

バジョット・ルール

バジョットは、1866年のオーバレンド・ガーニー商会破綻に端を発する恐慌の際、中央銀行の役割について重要な提言を行いました。「中央銀行の意義は貨幣の価値を維持することにあり、貸し渋れば取り付け騒ぎが起こりうる」と主張しました。この提言はイングランド銀行に受け入れられ、流動性危機を回避し、恐慌の収束に貢献しました。

この経験を踏まえ、1873年の著書『ロンバード街』では、中央銀行の「最後の貸し手」としての重要性を説いています。バジョットは、中央銀行が貸し出しを行う際のルールとして以下の2点を提唱しました。

貸付は非常に高い金利でのみ行うべきである。
あらゆる優良担保に基づき、公衆の請求がある限りすべての貸し出しに応じるべきである。

第一のルールは、本来融資を必要としない者が、念のために融資に殺到するのを防ぐためのモラル・ハザード対策です。第二のルールは、優良な担保を提供する者の借り入れを拒否することが、パニックを引き起こす原因となるためです。また、イングランド銀行が損失を被るような貸し出しは必要ないと付言しました。これは、不良取引が全体の取引のごく一部に過ぎないためです。

バジョットの提唱したこのルールは、「バジョット・ルール」として知られ、今日の中央銀行の金融政策にも大きな影響を与えています。

主な著書

Estimates of Some Englishmen and Scotchmen, (1858年).
The English Constitution, (1867年).
Physics and Politics, (1872年)
Lombard Street: A description of the money market, (1873年)
Literary Studies, (1879年).
Economic Studies, (1880年).
Biographical Studies, (1881年).
The Postulates of English Political Economy, (1885年).
The Works of Walter Bagehot, (1889年).
The Love Letters of Walter Bagehot and Eliza Wilson, (妻との共著)(1933年).

バジョットの著作は、現代においてもその価値を失わず、政治、経済、社会を理解するための重要な文献として読み継がれています。

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