イギリス海軍の色別戦隊

イギリス海軍の色別戦隊制度：赤、白、青の艦隊

17世紀半ばから19世紀半ばまで、イギリス海軍は独自の艦隊編成システムとして「色別戦隊」制度を採用していました。これは、艦隊を赤、白、青の3色で区分けし、それぞれの戦隊に将官を配置するもので、指揮系統の明確化や効率的な運用を目的としていました。本稿では、この興味深い制度について、その発祥から廃止までの歴史、軍艦旗との関連性、そして海戦における運用までを詳細に解説します。

色別艦隊の誕生と変遷

イギリス海軍は、当初大提督（ロード・ハイ・アドミラル）を中心とした指揮体制でしたが、17世紀に入ると艦隊規模の拡大に伴い、より明確な指揮系統の構築が必要となりました。そこで1625年頃（諸説あり）、艦隊を赤、白、青の3色に分ける色別戦隊制度が導入されたと考えられています。これは、将官旗の色分けによるもので、赤、白、青の各戦隊には、大将、中将、少将が配置されました。

初期には、赤、青、白の順でしたが、後に赤、白、青の順に変更されました。各戦隊の提督は、それぞれの色の将官旗を掲げた旗艦を指揮し、旗艦のメインマスト、フォアマスト、ミズンマストの頂上に掲げられた旗の色と位置によって、その階級と所属戦隊が識別されました。海軍元帥はユニオン・ジャックを掲げました。

提督の昇進は、青色戦隊の少将から始まり、白色戦隊、赤色戦隊へと昇進し、その後再び青色戦隊へと戻って中将へと進むという複雑なものでした。この昇進システムは、経験と実績を重視するものでした。

軍艦旗と代将旗

各戦隊の色に対応する軍艦旗（エンスン）も存在しました。ユニオン・ジャックを左上に配置し、残りの部分は赤、白、青のいずれかの色で構成されていました。当初は艦尾に掲げられていましたが、18世紀末には艦尾マストの邪魔になることから、停泊時は艦尾、航海中はミズンマストに掲げられるようになりました。

代将（コモドアー）は正式な将官ではありませんでしたが、メインマストに幅広燕尾旗を掲げることを許可されていました。その旗の色は、所属する戦隊の色によって決定されていました。上級代将と下級代将では、燕尾旗のデザインが異なっていました。

海戦における運用と例外

海戦においては、敵艦隊の旗の色と紛らわしい場合は、状況に応じて旗の色を変更することがありました。有名な例として、1782年のセインツの海戦では、フランス海軍の白旗と紛らわしいことから、イギリス艦隊は赤旗を掲げて戦闘に臨みました。また、トラファルガーの海戦ではネルソンの命令により、全艦が白旗を掲げて戦っています。

色別戦隊制度の廃止

19世紀に入ると、艦隊規模の拡大や組織改編が進み、色別戦隊制度は次第にその役割を終えていきました。1864年、色別戦隊制度は正式に廃止されました。しかし、軍艦旗の色は、海軍、商船、予備役を区別する目的で現在まで引き継がれています。

まとめ

イギリス海軍の色別戦隊制度は、その独特のシステムと歴史的背景から、海軍史において重要な位置を占めています。この制度は、艦隊の指揮系統の明確化に貢献した一方、海戦における旗の識別や将官の昇進にも影響を与え、イギリス海軍の発展に深く関わっていました。その複雑な運用や海戦における柔軟な対応、そして最終的な廃止に至るまでの過程は、海軍史研究において重要なテーマとなっています。

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