イザボー・ド・バヴィエール

イザボー・ド・バヴィエール（1370年頃 - 1435年9月24日）は、フランス王シャルル6世の妃であり、シャルル7世の母として知られる女性です。バイエルン公シュテファン3世の娘であり、その曽祖父は神聖ローマ皇帝ルートヴィヒ4世という、ヨーロッパにおいて重要な家系に生まれたイザボーは、ドイツ名ではエリーザベト・フォン・バイエルンと呼ばれていました。

1385年、14歳のイザボーは16歳のシャルル6世とアミアンで結婚します。結婚生活は12人の子供をもうけるほど長く続きましたが、1392年、シャルル6世は精神疾患を発症し、やがて政治を行うことが不可能となります。このことが、フランス王室における権力闘争を激化させる大きな要因となります。

シャルル6世の精神疾患を背景に、イザボーは王弟オルレアン公ルイとの密通の噂が流れ、ブルゴーニュ派とアルマニャック派という二つの勢力の対立が激化します。オルレアン公ルイ暗殺事件の後も、イザボーはブルゴーニュ公ジャン1世（無怖公）と関係を持ったという噂が絶えず、王家内部の権力争いはさらに複雑さを増していきます。

1415年のアジャンクールの戦いでのフランス側の敗北、そしてアルマニャック派の要人の相次ぐ死によって、アルマニャック派は勢力を失います。そこでアルマニャック派が擁立したのが、シャルル王太子（後のシャルル7世）でした。アルマニャック派によって追放されたイザボーは、公然とブルゴーニュ公ジャン無怖公と結びつきます。1418年にはブルゴーニュ派とイザボーがパリに入城し政権を掌握するものの、イングランド軍の侵攻を防ぐことはできませんでした。

ブルゴーニュ公ジャン無怖公が暗殺されるという事件が発生すると、ブルゴーニュ派とアルマニャック派の対立は決定的となり、新たなブルゴーニュ公フィリップ3世（善良公）はイングランドと同盟を結びます。1420年のトロワ条約では、イングランド王ヘンリー5世のフランス王位継承が認められ、シャルル王太子は「王太子ヴィエノワを称する者」として扱われ、ジャン無怖公暗殺の責任を負わされることとなります。この条約締結において、イザボーはシャルル王太子がシャルル6世の子ではないことを示唆したとも伝えられています。

英仏百年戦争は終盤を迎え、アルマニャック派に擁立されたシャルル王太子は、自らの出自に自信が持てずにいました。しかし、ジャンヌ・ダルクの登場により、シャルルは1429年にランスでフランス王として戴冠します。一方、ブルゴーニュ公フィリップ善良公は、1431年のヘンリー6世のフランス王戴冠式を欠席し、イングランドとの関係を疎遠にしていきます。そして、1435年、アラスの和約によってシャルル7世とブルゴーニュ派が和解すると、その数日後、イザボーはパリで亡くなりました。

イザボー・ド・バヴィエールは、12人の子供をもうけました。その中には、イングランド王リチャード2世妃となったイザベル、イングランド王ヘンリー5世妃となったカトリーヌ、そしてフランス王シャルル7世が含まれています。彼女の子女たちは、複雑な政治的状況の中でそれぞれの運命を歩むこととなります。イザボーの生涯は、激動の時代を生きた女性の複雑な人生を示す一つの例として、歴史に刻まれています。彼女の行動や決断は、英仏百年戦争の経過やフランス王室の運命に大きな影響を与えたことは間違いありません。

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