イスラエル交響曲

イスラエル交響曲

『イスラエル交響曲（Israel Symphony）』は、スイス生まれの作曲家エルネスト・ブロッホ（Ernest Bloch, 1880-1959）が、1912年から1916年にかけて作曲した大規模な管弦楽作品です。この交響曲は、単なるオーケストラ作品に留まらず、5名の声楽独唱（ソプラノ2名、アルト2名、バス1名）を伴うという、当時としては斬新な編成が採用されています。

作品に『イスラエル』という表題が与えられた背景には、フランスの著名な作家であり、ノーベル文学賞受賞者でもあるロマン・ロラン（Romain Rolland）からの示唆があったとされています。ブロッホは自身の音楽を通じて、ユダヤ民族の歴史、伝統、そして精神性を表現しようと試みており、この交響曲もその重要な一環として位置づけられています。

その初演は、作曲完成の翌年である1917年5月3日、アメリカ合衆国ニューヨークにある著名な音楽ホール、カーネギー・ホールにて行われました。この記念すべき世界初演では、作曲者であるエルネスト・ブロッホ自身がタクトを執っています。

楽器編成

この作品のためにブロッホが指定した楽器編成は非常に大規模であり、豊かな響きと多様な音色を追求していることが伺えます。具体的には以下の通りです。

木管楽器:
フルート 4名（うち1名はピッコロに持ち替え）
オーボエ 3名
イングリッシュホルン 1名
クラリネット 3名（B♭管。うち1名はE♭管クラリネットに持ち替え）
バスクラリネット 1名
ファゴット 3名
コントラファゴット 1名
金管楽器:
ホルン 6名
トランペット 4名
トロンボーン 3名
チューバ 1名
打楽器:
奏者 3名
ティンパニ（3台）
大太鼓
独奏シンバル
小太鼓
トライアングル
タムタム
その他:
ハープ 2台
チェレスタ 2台
声楽:
ソプラノ 2名
アルト 2名
バス 1名
弦五部:
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの標準的な編成

この広範な編成は、ユダヤの情感や歴史的な重みを表現するためのブロッホの意図を反映していると言えるでしょう。

楽曲構成

作品は、導入部を含む全体で3つの楽章から成り立っています。特筆すべきは、第2楽章と第3楽章がアタッカ（切れ目なく続けて演奏すること）で接続されている点です。

第1楽章

楽章名は『Lent et solennel』（遅く、荘厳に）。
曲は導入部として静かに始まります。ここでは主に管楽器が中心となり、どこか田園風景を思わせるような穏やかで瞑想的な旋律が奏でられます。この導入部に続いて現れる主部では、トランペットによって力強く新しい主題が提示され、楽章の雰囲気が大きく変化します。

第2楽章

楽章名は『Allegro agitato』（速く、激動的に）。
この楽章には、『贖罪の日』（Yom Kippur）という副題が付けられています。贖罪の日はユダヤ教において最も神聖で厳粛な日であり、楽章名にある『agitato』という指示が示す通り、激しく揺れ動く、あるいは内省的な音楽が展開されることが推測されます。

第3楽章

楽章名は『Moderato』、あるいは括弧書きで『Andante grazioso』と示されています。
この楽章には、『仮庵の祭』（Sukkot）という副題が付けられています。仮庵の祭りは、ユダヤの収穫を祝い、歴史的な出来事を記憶する祭りであり、楽章名にある『Moderato』や『grazioso』が示す通り、比較的穏やかで優美な音楽が特徴的であることがうかがえます。この楽章で独唱がどのように用いられるかは、ユダヤの祭りにおける声楽の役割と関連付けられるかもしれません。

『イスラエル交響曲』は、ブロッホが追求した「ユダヤの音楽」の一つの到達点を示す作品であり、その後の彼の創作活動にも大きな影響を与えたと評価されています。独唱と大規模な管弦楽が織りなすサウンドは、聴く者に深い感銘を与えることと感動を与えます。

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