イソガニ

イソガニ（磯蟹）

イソガニ（学名：Hemigrapsus sanguineus）は、エビやヤドカリと同じ十脚目に属するカニの仲間で、モクズガニ科に分類されます。その名の通り、海岸の岩場や潮だまりなどでごく普通に見られる身近なカニです。

形態

成体の甲羅の幅は通常25mmほどですが、中には38mmに達する大きな個体も存在し、これは陸上に生息するアカテガニよりも大きくなることがあります。体は比較的平たく、甲羅の表面はなめらかでわずかに膨らんでいます。甲羅の前側縁、つまり両脇の部分には、目の外側を含めて3つのギザギザ（鋸歯）があります。ハサミ（鉗脚）は左右が同じ大きさで、特にオスでは大きく発達し、ハサミの関節部分に柔らかいキチン質の袋状の構造が見られます。メスのハサミはオスより小さく、この袋はありません。体色は、甲羅の表面が緑灰色と紫色のまだら模様、歩脚にも同様の緑灰色と紫色の横縞模様が見られます。体の腹面はほとんど白色です。似た種類であるヒライソガニとは異なり、イソガニの体色や模様には個体差がほとんどありません。

同属のケフサイソガニやタカノケフサイソガニは、オスのハサミの関節部に袋ではなく毛の束が生えている点でイソガニと区別できます。また、ヒメケフサイソガニやスネナガイソガニも同じ属ですが、これらは甲幅が数mm程度の非常に小型の種類です。

生態

イソガニは、日本の樺太から中国東岸、東南アジア、オーストラリア、ハワイに至る西太平洋の沿岸域に広く分布しています。日本国内でも各地で普通に見られます。近年では、1988年にアメリカ合衆国ニュージャージー州、1999年にはフランス北部で発見されて以降、北米大西洋岸や北海沿岸でも生息範囲を広げています。これらの個体群は、船舶のバラスト水に幼生が紛れ込み、寄港地で定着した外来種と考えられています。

岩場や石が転がる海岸の、潮が満ち引きする潮間帯から常に水に浸かっている潮下帯にかけて生息しており、外洋に面した場所でも波静かな内湾でも見られます。汽水域にも入りますが、塩分濃度が高い区域に多く、真水に近い場所ではあまり見られません。砂泥のみの場所にはいませんが、石やカキ殻、コンクリート製の人工物など、隠れる場所があればその物陰に潜んでいます。平たい体は、こうした狭い隙間に隠れるのに適しています。隠れている石をひっくり返すと、素早く走り出して近くの物陰に逃げ込みます。食性は雑食性で、海藻や小魚、ゴカイ、貝類など、様々なものを食べます。一方、鳥類やクロダイ、タコなどが天敵となります。日本での繁殖期は4月下旬から8月頃で、この時期には卵をお腹に抱えたメスが見られます。

なお、イソガニを含む岩礁海岸に生息するカニには、ウンモンフクロムシという寄生虫が腹部に寄生することがあります。

利用

岩石が多い海岸にはごく普通に生息しており、個体数も多いため、磯遊びなどでイワガニやオウギガニなどと共に目にする機会が非常に多いカニです。

飼育することも可能ですが、汚れた海水や真水ではすぐに弱ってしまいます。エアレーションを行い、水を清潔に保つ管理が必要ですが、海水性のカニとしては比較的飼いやすい部類に入ります。生命力も比較的強く、エラが湿った状態に保たれ、適切な温度であれば、陸上でもしばらく生きていられます。

一般的には食用とされることは少ないですが、味噌汁の具などとして食べられることもあります。また、クロダイやイシダイなどの釣り餌として利用されており、釣具店などで販売されていることもあります。

類似種

「イソガニ」の名を持つカニは他にも存在し、形態や生態が似ている種類も多くあります。

ケフサイソガニ：オスのはさみ関節部に毛の束があります。
タカノケフサイソガニ：ケフサイソガニに似ますが、オスのはさみの毛の束の形状が異なります。
ヒメケフサイソガニ：甲幅数ミリの小型種で、体に軟毛が密生します。
スネナガイソガニ：甲幅15mmほどの小型種で、歩脚が長いのが特徴です。
ヒライソガニ：イソガニよりやや小さく、甲が非常に平たいです。体色や模様の個体差が非常に大きいのが特徴です。
タイワンヒライソモドキ：河口の汽水域に生息する小型種で、形態的にヒライソガニとケフサイソガニの中間的な特徴を持ちます。
アカイソガニ：甲が丸みを帯び、体が赤く、主に飛沫帯に生息します。
ヒメアカイソガニ：甲幅10mmほどの小型種で、短毛に覆われ、擬死をします。

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