イタリアから

交響的幻想曲『イタリアから』（Aus Italien）作品16, TrV 147

リヒャルト・シュトラウスが1886年に作曲した管弦楽曲であり、彼にとって初めて標題を掲げた作品として知られています。『イタリアより』と表記されることもあります。

シュトラウスは初期、指揮者ハンス・フォン・ビューローからの影響を強く受け、絶対音楽を志向していました。しかし、作曲家アレクサンダー・リッターとの交流を通じて、フランツ・リストやリヒャルト・ワーグナーが推進した標題音楽への関心を深めていきます。本作『イタリアから』は、シュトラウスが絶対音楽から標題音楽へと創作の方向性を転換する出発点となった記念碑的な作品です。ただし、内容的には各楽章が特定の情景を描写するというよりは、イタリアで受けた全体的な印象を音楽で表現しようとしており、ソナタ形式などの伝統的な形式を用いた4楽章構成であることから、交響曲的な性格も併せ持っており、彼の創作における過渡期を映し出しています。

この曲は、シュトラウスがマイニンゲン宮廷楽団を退団した後、ブラームスの助言を受けて1886年の4月から8月にかけてイタリアを旅した際に構想が進められました。スケッチは旅先で書かれ、帰国後のミュンヘンで完成されました。作品は、シュトラウスの才能を早くから見出した恩師であるハンス・フォン・ビューローに献呈されています。

初演は1887年3月2日、ミュンヘンのオデオン劇場にて、作曲者自身の指揮、ミュンヘン宮廷管弦楽団の演奏で行われました。当時の聴衆の反応は賛否両論に分かれ、必ずしも完全な成功とは言えませんでした。しかし、この作品を通じてシュトラウスは自身の進むべき道、すなわち標題音楽による表現への確信を深めたと言われています。

全曲の演奏時間は約45分です。

編成は以下の通りです。

ピッコロ 1
フルート 2
オーボエ 2（2番はコーラングレ持ち替え）
クラリネット 2
ファゴット 2
コントラファゴット 1
ホルン 4
トランペット 2
トロンボーン 3
ティンパニ
小太鼓
タンブリン
シンバル
トライアングル
ハープ
弦五部

楽曲は以下の4つの楽章から構成されています。各楽章にはイタリアの風景や生活を想起させる標題が付されています。

1. 第1楽章：カンパーニャにて (Auf der Campagna)
Andante、三部形式。ローマ近郊の田園地帯を描写した楽章と考えられます。

2. 第2楽章：ローマの遺跡にて (In Romas Ruinen)
Allegro molto con brio、ソナタ形式。ローマの歴史的な遺跡を訪れた際の印象が元になっており、シュトラウスはカラカラ浴場でこの楽章のスケッチを行ったと伝えられています。

3. 第3楽章：ソレントの海岸にて (Am Strande von Sorrent)
Andantino、自由なソナタ形式。ナポリ湾に面した景勝地ソレントの海岸の情景が描かれます。

4. 第4楽章：ナポリ人の生活 (Neapolitanisches Volksleben)
Finale. Allegro molto、ソナタ形式。活気あふれるナポリの日常生活の様子を音楽にした楽章です。この楽章では、当時人気を博していたヴェスヴィオ登山電車のコマーシャルソングである「フニクリ・フニクラ」の旋律が用いられています。シュトラウスはこの曲を古くから伝わるイタリア民謡と誤解して使用したため、楽譜が出版され演奏されるたびに、「フニクリ・フニクラ」の作曲者ルイージ・デンツァに対して著作権料を支払うことになったという逸話が残されています。

この作品は、後の交響詩『ドン・ファン』や『死と変容』など、シュトラウスが確立する独自の標題音楽の世界への重要な一歩を示すものとして、彼の創作活動全体の中で意義深い位置を占めています。

関連項目：フニクリ・フニクラ、ヴェスヴィオ

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