イヌイット語

イヌイット語について

イヌイット語は、北アメリカの極北部、具体的にはグリーンランド、カナダ、アラスカなどに居住するイヌイット民族の固有言語です。社会言語学的には、カナダで使用されるイヌクティトゥット語と、グリーンランドで使用されるグリーンランド語（カラーリット語）に大別されます。しかし、イヌイット語内の方言差は大きいものの、国境を越えて言語の大きな違いがあるわけではありません。

名称について

かつては「エスキモー」という他称が用いられていましたが、現在では特にカナダのイヌイットの人々はこの名称を嫌い、「イヌイット」という呼称が一般的です。「イヌイット」は特定の民族を指す名称であり、アラスカのユピックなど他の民族が「イヌイット」と自称することはありません。一方で、アラスカではイヌイットも他の民族も従来通り「エスキモー」と自称することがあります。

「イヌイット語」は、エスキモー・アレウト語族に属し、アラスカ西部やチュコト半島のユピック語と近い関係にあります。イヌイット語とエスキモー語は混同されることがありますが、エスキモー語はイヌイット語、ユピック語など複数の言語の総称であり、「エスキモー諸語」とも呼ばれます。また、イヌイット語も複数の方言からなり、これらを独立した言語と見なすこともでき、「イヌイット諸語」とも呼ばれます。地域によっては意思疎通が難しい場合もありますが、方言差は連続的であり、明確な分類は困難です。

現状

イヌイット語の話者数は、グリーンランドで約5万2000人、カナダで約3万人、アラスカで約3400人、ロシアで約450人、その他デンマークなどに居住する人々を含め、全世界で約9万人と推定されています。アラスカではイヌイット語を話す人が減少し、ロシアではさらに減少が進んでおり、消滅の危機に瀕しています。しかし、グリーンランドとカナダでは、一部の方言が公用語として認められ、部族単位で教育が行われています。

表記

イヌイット語は一般的にラテン文字で表記されますが、カナダでは独自のカナダ先住民文字も使用されています。

系統

イヌイット語はエスキモー・アレウト語族に属し、ユピック語と近い関係にあり、アレウト語とも遠い関係にあります。この語族はアメリカ・インディアン諸語とは全く異なり、シベリア方面の言語との関連性が指摘されていますが、まだ証明されていません。

歴史

エスキモー民族は、ベーリング海峡周辺（アラスカ西部・チュコト半島）を原住地として東へ移動したと考えられています。イヌイット語は、この地域で話されるユピック語から派生したという説があります。グリーンランドでは、13世紀にヴァイキングが移住した際には既にイヌイット語が話されていました。

性質

イヌイット語の母音は、基本的に[a]、[i]、[u]の3つで、場合によっては[e]、[o]の発音になることもあります。また、長短の区別があり、音節はCVC型で、長母音は2モーラとして扱われます。

文法的には、イヌイット語は複統合語（抱合語の一種）として知られています。これは、一つの文に相当する意味が動詞に接辞として組み込まれて表現されるという特徴です。また、能格言語でもあります。これらの特徴は、エスキモー・アレウト語族の基本的な性質と考えられますが、アレウト語では複統合性がかなり弱まっています。複統合語は広義の抱合語に含まれますが、狭義の抱合語（多数の接辞によって意味論的な派生を行う言語）とは異なります。イヌイット語は、あくまで複統合語として分類されます。

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