イブン・アル＝アシュアス

アブドゥッラフマーン・ブン・ムハンマド・ブン・アル＝アシュアス（イブン・アル＝アシュアス）

アブドゥッラフマーン・ブン・ムハンマド・ブン・アル＝アシュアス（通称：イブン・アル＝アシュアス、没年704年）は、ウマイヤ朝時代に活躍したアラブ人の有力な軍司令官です。彼は、700年から703年にかけてイラク総督のアル＝ハッジャージュ・ブン・ユースフに対して大規模な反乱を起こしたことで、歴史に名を残しています。

生い立ちと初期の経歴

イブン・アル＝アシュアスは、イエメン東部のハドラマウトを起源とするキンダ族の有力な氏族の出身です。彼の家系は、イスラーム世界の第二次内乱でムフタール・アッ＝サカフィーを討伐する戦いに参加し、内乱終結後はレイの総督を務めるなど、早くから政治に関わっていました。

694年、カリフのアブドゥルマリクはハッジャージュをイラク総督に任命しました。しかし、ハッジャージュの政策はイラク人の権益を脅かすものであったため、イラクの有力者層とハッジャージュの関係は悪化しました。そのような状況下で、699年にハッジャージュはイブン・アル＝アシュアスを、アラブ人勢力の進出に抵抗していたザーブリスターンの支配者ズンビールに対する遠征軍の指揮官に任命しました。

反乱の勃発

しかし、ハッジャージュが遠征先における進軍を強要したことや、ハッジャージュに対する従来からの反感が原因となり、イブン・アル＝アシュアスとその配下の軍隊は遠征先で反乱を起こしました。イブン・アル＝アシュアスは背後の安全を確保するためにズンビールと協定を結び、その後イラクに向けて進軍を開始しました。

反乱の経過

当初、ハッジャージュは反乱軍の圧倒的な兵力の前に退却を余儀なくされましたが、バスラの近郊では勝利を収めました。しかし、反乱軍はクーファの占領に成功し、バスラから撤退した兵士もクーファに集結し始めました。この反乱は、ウマイヤ朝の支配に不満を持つ人々、特に「クッラー（クルアーン朗唱者）」と呼ばれる宗教的過激派の間で広く支持を集めました。

カリフのアブドゥルマリクは、ハッジャージュの解任やイラク人の俸給（アター）の引き上げを含む条件を提示して和解を試みましたが、クッラーを始めとする反乱軍内の強硬派は政府との妥協を拒否し、交渉は決裂しました。しかし、このような強行姿勢は結果に結びつかず、反乱軍はダイル・アル＝ジャマージムの戦いでウマイヤ朝政府が派遣したシリア軍の前に決定的な敗北を喫しました。

その後、イブン・アル＝アシュアスは東方のズンビールの下に逃れましたが、ハッジャージュの圧力に屈したズンビールによって身柄を拘束されました。彼の最期については、ズンビールが自ら処刑したとする説や、ハッジャージュへの身柄の引き渡しを避けるために投身自殺したとする説などがあります。

反乱の影響

イブン・アル＝アシュアスの反乱の失敗は、それまでイラクのアラブ部族の有力者層が手にしていた強大な権力の終焉を意味しました。この反乱以降、イラクはウマイヤ朝政府に忠実なシリア軍の支配下に置かれることになりました。その後、イラクでは720年にヤズィード・ブン・アル＝ムハッラブ、740年にはザイド・ブン・アリーが反乱を起こしましたが、これらの反乱はいずれも失敗に終わりました。最終的にイラクがウマイヤ朝の支配から脱したのは、750年にアッバース革命が成功してからのことでした。

イブン・アル＝アシュアスの遺産

イブン・アル＝アシュアスの反乱は、ウマイヤ朝の支配に対するイラクの人々の不満の表れであり、その後のイラクの政治情勢に大きな影響を与えました。彼の反乱は失敗に終わりましたが、その精神は後世に受け継がれ、アッバース革命へと繋がっていきました。

彼の行動は、権力に対する抵抗の象徴として、今日でも語り継がれています。

もう一度検索