イポリット・テーヌ

イポリート・テーヌの生涯と業績

イポリート・テーヌ（Hippolyte Adolphe Taine）は、1828年4月21日にフランス北部のヴージエで生まれ、1893年3月5日に他界した著名な哲学者、批評家、文学史家です。彼はパリのエコール・ノルマルで学び、地方のリセで教鞭を執った後、1852年にパリに戻り、学問の道を進みました。彼は1853年にLa Fontaineの寓話に関する論文『Essai sur les fables de La Fontaine』で学位を取得し、さらに1856年にはティトゥス・リウィウスについての史論『Essai sur Tite-Live』でアカデミー賞を受賞しました。

1863年には彼の代表作でもある4巻から成る『英国文学史 Histoire de la littérature anglaise』の執筆を開始し、その後1857年に『歴史および批評論 Essais de critique et d'histoire』を発表。この業績により、彼は批評家としての地位を確立しました。1864年にはパリの美術学校（Ecole des Beaux-Arts）の教授に就任し、20年間美術史を教え、その成果は1882年に出版された『芸術哲学 Philosophie de l'art』にまとめられました。1870年に発表された『知性論』は彼の哲学への復帰を示し、晩年には大作『近代フランスの起源 Origines de la France contemporaine』に取り組みましたが、こちらは未完に終わっています。

哲学と批評

テーヌの思想は感覚論の影響を受けており、彼は人間やその作品を自然科学の観点から考察し、その背後にある法則を解明しようとしました。彼の批評に対する情熱は、薬学や解剖学を学ぶことで培われ、分析対象を人種、環境、時代の3要素に還元する手法は、決定論や唯物論といった立場に傾きがちでした。ただ、エコール・ノルマル時代から彼の「早急な判断と形式化」は批判の対象になり、現実を無視しすぎる点が問題視されました。

テーヌはこれらの要素を単純化しすぎる面があり、政治や歴史の領域では、複数の要因が絡み合う実際の状況を捉えきれないことがありました。特に、政治的な行動や歴史的な出来事は、多様な要因の相互作用によって形成されるものであり、テーヌのアプローチは必ずしもそれを反映するものではありませんでした。

革命と社会

テーヌは普仏戦争やパリ・コミューンを契機に、政治や社会問題への関心を深めました。彼にとってイギリスの保守主義や秩序は模範であり、当時のフランスの状況は否定的に捉えられていました。この見解は、ヴォルテールやシャルル・ド・モンテスキューといった先達から影響を受けたものです。彼は『近代フランスの起源』で、フランス革命の精神的な起源を探り、デカルト以来の演繹的な思考法が啓蒙思想家によって拡張され、具体的事実を無視した結果が近代フランスの苦悩を招いたと主張しました。

テーヌは、1789年の理想主義と1793年の恐怖政治を同じ視点で理解し、責任の所在をルソーに帰することで革命の理解を深めようとしました。彼の資料批判には非科学的な側面があり、革命にかかわった人々にとって扱いやすい資料ばかりを選択した点も挙げられます。テーヌの民主主義に対する姿勢も問題視され、特権階級がその地位を失った原因を、権利の悪用と義務を忘れたことに求めました。

このように、テーヌは新しい動きに対する悲観主義を持ち、彼の視点はフランスの歴史的な背景とも密接に関連していると考えられます。その後、彼はアレクシス・ド・トクヴィルと異なり、歴史学におけるアマチュアと見なされ、やがて後の歴史家によって批判や修正を受けました。

日本語訳書

テーヌの作品は日本においても翻訳されており、代表的なものには以下の書籍があります。

• - 英国文学史 古典主義時代（手塚リリ子・手塚喬介訳、白水社、1998）
• - 英国文学史（3巻）（平岡昇訳、創元選書、1949）
• - 文学史の方法（瀬沼茂樹訳、岩波文庫、1949）
• - 作家論（平岡昇・秋田滋訳、改造文庫、1938）
• - ピレネ紀行（杉富士雄訳、現代思潮社、1973）
• - 近代フランスの起源 旧制時代（2巻）（岡田真吉訳、角川文庫、1963）
• - 近代フランスの起原 仏蘭西革命史論（2巻）（岡田真吉訳、斎藤書店、1947-1948）
• - 芸術哲学（広瀬哲士訳、大村書店、1926）

そのため、テーヌの思想は日本の文学や思想においても重要な位置を占めています。

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