イラクサ

イラクサ：日本の山野に生える刺激的な植物

イラクサ（学名: Urtica thunbergiana）は、イラクサ科イラクサ属に属する多年草で、別名イタイタグサとも呼ばれます。高さ40～80cmに成長し、四角形の茎には下向きの細かい毛が密生しており、触れると強い痛みを感じます。この痛みは、刺毛の基部に含まれるアセチルコリンとヒスタミンという物質が原因です。

葉は対生し、卵形から卵円形で、縁にはギザギザとした鋸歯があります。葉の表面には短い毛がまばらに生え、裏面には葉脈に沿って短い毛が生えています。花期は9～10月で、緑白色の小さな雄花と淡緑色の雌花をつけます。果実は扁平な緑色の痩果です。

イラクサの分布は、日本（本州の福島県以南、四国、九州）、朝鮮半島、台湾などに及びます。山地の林縁や林内の湿った場所に群生することが多く見られます。

和名である「イラクサ」は、茎や葉の刺毛に触れると炎症を起こし、激しい痛みを伴うことから「刺草」を意味すると言われています。別名「イタイタグサ」も同様の意味を持ちます。属名の Urtica は、ラテン語の「燃やす」「ちくちくする」を意味する言葉に由来しており、刺毛による痛みを表現しています。種小名 thunbergiana は、日本の植物を研究したスウェーデンの植物学者、カール・ツンベルクに献名されたものです。

「イラクサ」という名前は、時に他の近縁種を指す場合もあります。例えば、ヨーロッパや北アメリカに分布するセイヨウイラクサ(Urtica dioica)も「イラクサ」と訳されることがありますが、本種とは別種です。また、山菜として利用されるミヤマイラクサは、イラクサ属ではなくムカゴイラクサ属に属する別種です。さらに、アイヌ民族が草皮衣の材料として用いた「イラクサ」は、エゾイラクサやムカゴイラクサを指す場合が多いようです。

イラクサは、環境省のレッドデータブックには掲載されていませんが、福島県と鹿児島県では準絶滅危惧種に指定されています。

イラクサの仲間には、他にエゾイラクサ、コバノイラクサ、ホソバイラクサなどがあります。これらの種は、葉の形や托葉の数などに違いが見られます。

薬用としては、夏から秋にかけて全草を採取し、乾燥させたものが用いられます。近年では、セイヨウイラクサを乾燥させた「ネトル茶」が、健康茶として流通しています。

奈良公園では、シカの食害から身を守るため、トゲの数が通常のイラクサと比較して50倍以上も多い個体が確認されています。これは、長年にわたるシカとの共存の中で、イラクサが進化の過程で獲得した防御機構と考えられています。

文学作品においては、アンデルセンの「野の白鳥」にセイヨウイラクサが呪いを解く鍵として登場します。

イラクサは、その独特の刺毛と、薬草としての利用、そしてシカとの進化の物語を通して、私たちの自然観に多様な視点を与えてくれる植物と言えるでしょう。

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