イラク共和国 (1958年-1968年)

イラク共和国（1958年 - 1968年）：激動の時代

イラク共和国は、1958年の7月14日革命によってイラク王国が打倒されたことを機に誕生しました。ムハンマド・ナジーブ・アッ＝ルバーイー大統領とアブドルカリーム・カーシム首相の下、新たな国家として歩み始めましたが、1968年にバアス党が政権を掌握するまでの短い期間でした。

領土と国家の目的

イラク王国時代、イラクはヨルダンとともにアラブ連邦を構成していました。しかし、共和国成立に伴い連邦は解消され、イラクは王国時代の領土に戻り、ヨルダンは再び独立国家となりました。

カーシム首相は、「北のザホーから南のクウェートへ」というスローガンを掲げ、領土の明確化を目指しました。ザホーはイラク北端の都市であり、クウェートは当時イギリスの支配下にありましたが、イラクはクウェートに対する民族統一主義的な主張を保持し続けました。また、イラン国内のクルディスタン地域に対して、イラクへの統合を支持する姿勢を示唆するなど、領土に関する主張を積極的に展開しました。

文化的多様性と国民統合

カーシム首相は、アラブ人、アッシリア人、クルド人、ヤジディ教徒など、すべての民族集団をイラク国家の対等なパートナーとして認めました。クルド語を公用語として法的に認めただけでなく、アラビア文字のクルド語版を国家で使用するなど、クルド文化の尊重を明確に打ち出しました。クルド語は、クルド人居住地域だけでなく、イラク全土の教育機関で教育媒体として使用されました。

カーシム政権下では、民族的アイデンティティよりも、アラブ・クルド間の友愛に基づいたイラクの文化的アイデンティティが強調されました。政府はクルド人のナショナリズムをイラクのナショナリズムと文化に統合しようと試み、クルド人指導者ムスタファ・バルザーニとの協力関係を構築しました。バルザーニはカーシムを「アラブ人とクルド人の指導者」と呼び、イラク国民としてのクルド人の支持を表明しました。

経済原則

カーシム政権は、経済に関して以下の9つの原則を推進しました。

1. 経済全体の計画
2. 独占の解体と中産階級の強化
3. 経済の帝国主義からの解放
4. 土地所有制度の廃止
5. すべての国との貿易
6. アラブ諸国との緊密な経済関係
7. 公共部門の拡大
8. 民間部門の奨励
9. 経済成長率の向上

これらの原則に基づき、経済の発展を目指しましたが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。

共和国革命の前身

第二次世界大戦中および戦後、1941年のクーデターをきっかけに、イギリスはイラクを再占領しました。その後、イギリスとの間で新たな条約が締結されましたが、イラクの軍事・外交に対するイギリスの影響力は依然として大きい状況でした。このような政治的背景の中、イラク国内では共和国樹立に向けた動きが徐々に高まっていきました。

イラク共和国は、多様な民族と文化が共存する国家として、独自の道を歩もうとしましたが、その歴史はわずか10年で幕を閉じました。しかし、この短い期間における政治、経済、文化における様々な試みは、その後のイラクの歴史に大きな影響を与えました。

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