イラド

イラドは、旧約聖書の創世記に登場する人物で、カインの家系に属しています。具体的には、カインの息子であるエノクの息子であり、メフヤエルの父親として記録されています（創世記4章18節）。

聖書における表記は、翻訳によって異なる場合があります。『口語訳聖書』（1955年）では「イラデ」と表記されていますが、『新共同訳聖書』（1987年）では「イラド」と表記されています。これは、翻訳時の解釈や言語の変遷によるものです。

イラドが登場する創世記4章17節から22節には、カインの子孫たちの名前が列挙されています。興味深いことに、これらの名前の中には、創世記5章1節から32節に記載されたカインの弟セトの子孫たちの名前とよく似たものが存在します。この類似性は、聖書研究において、文書仮説という視点から分析されています。

文書仮説によると、カインの系図はヤハウィスト資料（J資料）に由来し、セトの系図は祭司資料（P資料）に由来すると考えられています。J資料とP資料の間には、7組の類似した名前が存在しており、それぞれの資料における人物が対応関係にあると考えられています。この中で、ヤハウィスト資料における「イラド」は、祭司資料における「イエレド」に対応するとされています。

このように、イラドは、聖書の物語における単なる一人物にとどまらず、聖書の構成や歴史的背景を考察する上でも重要な手がかりを提供する人物であると言えるでしょう。イラドの名前が示す系譜のつながりや、文書資料間の対応関係は、聖書研究における重要な論点であり、その解釈は多岐にわたっています。彼の存在は、聖書の複雑さと深さを物語る一例として、私たちに多くの示唆を与えてくれます。



参考文献:

『聖書 [口語] 』日本聖書協会、1955年
『聖書 [新共同訳] 』日本聖書協会、1987年

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