イルゼ・フロム＝ミヒャエルス

イルゼ・フロム＝ミヒャエルス (Ilse Fromm-Michaels, 1888-1986)

ドイツの作曲家・ピアニスト、イルゼ・フロム＝ミヒャエルスは、1888年12月30日にハンブルクで生まれ、1986年1月22日にデトモルトでその生涯を終えました。類稀な音楽的才能に恵まれた彼女は、激動の時代を経て、作曲家、ピアニスト、そして教育者としてドイツ音楽界に重要な足跡を残しました。

幼少期より音楽への情熱を示したフロム＝ミヒャエルスはピアノを始め、13歳でベルリン王立高等音楽学校に進学、さらにシュテルン音楽院でも学びを深めました。ジェームズ・クヴァストにピアノを、ハンス・プフィッツナーに作曲を師事し、特にプフィッツナーからの影響は彼女の作曲スタイルに大きく反映されました。1911年にはケルンでカール・フリードベルクのもとでピアノの腕を磨いています。

1908年からピアニストとして活動を開始すると、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、オットー・クレンペラー、アルトゥル・ニキシュといった一流指揮者たちと共演し、その演奏は高く評価されました。作曲においては後期ロマン派の伝統を受け継ぎましたが、ピアニストとしては同時代音楽に強い関心を持ち、リサイタルでグラナドス、ブゾーニ、レーガー、コダーイ、バルトーク、新ウィーン楽派、ストラヴィンスキー、ミヨー、ヒンデミットなど、幅広い近代作品を積極的に紹介しました。

作曲家としての初期、1908年から1919年にかけては、ピアノ作品を中心に創作しました。《4つのパペット》作品4や《ピアノ・ソナタ》作品6、《自作主題による変奏曲》作品8などがこの時期の作品です。1915年には弁護士のヴァルター・ミヒャエルスと結婚し、息子ヨスト（後に著名なクラリネット奏者）をもうけています。

1933年にナチス政権が樹立されると、ユダヤ系の男性と結婚していたフロム＝ミヒャエルスは、公的な演奏活動や自作の上演を一切禁じられるという厳しい制限を受けました。事実上の「内的亡命」を余儀なくされた彼女は、この困難な状況下で作曲活動に専念しました。当時の作品には、暗い時代背景と自身の境遇が反映され、悲観的で憂鬱な色合いが濃く出ています。1934年の《マリアの受難》、1938年の《交響曲 嬰ハ短調》、1944年の《緩やかな音楽》などがこの時期の代表作です。夫ヴァルターもナチス時代に心身を病み、戦後間もなく亡くなりました。

第二次世界大戦後、フロム＝ミヒャエルスは教育者として復興期の音楽界に貢献します。1945年にはハンブルク音楽演劇高等学校の教員に任命されました。そして1946年、ナチス時代に書かれた傑作《交響曲 嬰ハ短調》がハンス・シュミット＝イッセルシュテット指揮、北西ドイツ放送交響楽団によって初演され、批評家から絶賛されました。作曲は1949年まで続けましたが、その後は主にハンブルクの大学教授、音楽教育者として後進の指導に尽力しました。

晩年はデトモルトの養老院で過ごし、1986年に97歳で静かに永眠しました。イルゼ・フロム＝ミヒャエルスの音楽は、時代の抑圧に抗い、内なる声に忠実であろうとした一人の女性芸術家の強い精神性を今に伝えています。

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