イレク・トエ

イレク・トエ：オゴデイ・ウルスの礎を築いた千人隊長

イレク・トエ（Ilek tö'e）は、13世紀初頭のモンゴル帝国において重要な役割を果たした人物です。彼は千人隊長（ミンガン）の一人として、チンギス・カンの下で活躍し、特に三男オゴデイとの関係が深く、オゴデイ・ウルスの形成に大きく貢献しました。

生涯

イレク・トエに関する記録は、残念ながら『モンゴル秘史』のような東方で編纂された史料には見られません。彼の存在が確認できるのは、フレグ・ウルスで編纂された『集史』のみです。『集史』によれば、イレク・トエはスルドス部族の枝族であるタムガリク部族の出身であったとされています。興味深いことに、タムガリク部族出身とされる人物は、史料上ではイレク・トエのみです。

チンギス・カンが息子たち（ジョチ、チャガタイ、オゴデイ）や弟たち（カサル、カチウン、オッチギン）に千人隊を分け与えた際、イレク・トエはジャライル部のイルゲイ・ノヤン、ベスト部のデゲイ、コンゴタン部のダイルらと共にオゴデイに与えられました。このイレク・トエを含む4人の千人隊長が率いる千人隊が、後のオゴデイ・ウルスの原型となったのです。

イレク・トエ自身の事績については、詳しい記録が残されていません。しかし、『集史』によれば、イレク・トエの子孫であるトマという人物がフレグ・ウルスに仕え、ホラーサーンに駐屯していたと伝えられています。『集史』編纂時点では、アミール・ムライがその地位を継承していたとのことです。

初期オゴデイ・ウルスの4千人隊

初期のオゴデイ・ウルスの基盤を支えたのは、以下の4つの千人隊でした。

ジャライル部のイルゲイ・ノヤン
ベスト部のデゲイ
スルドス部のイレク・トエ
コンゴタン部のダイル

これらの千人隊は、オゴデイ・ウルスの軍事力の中核となり、その後の帝国の拡大に大きく貢献しました。

イレク・トエは、その出自や具体的な事績こそ多くは謎に包まれていますが、オゴデイ・ウルスの初期において重要な役割を果たした人物であることは間違いありません。彼の存在は、モンゴル帝国の歴史を語る上で、決して忘れてはならないものと言えるでしょう。

参考文献
志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
村上正二訳注『モンゴル秘史 3巻』平凡社、1976年

もう一度検索